オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、現在に至るまでの市場についてふんだんに二次的思考を巡らせている。
最古の投資格言が言うように、頭脳と強気相場を混同してはいけない。
マークス氏が最新のMemoで書いている。
タイトルは「イージー・マネー」。
あぶく銭とか金融緩和と訳される言葉だ。
要は、過去40年、特に2009年以降に投資で成功したからといって天狗になってはいけないということだ。
成功の多くは低金利・金利低下によるタナボタの要因も大きかったのだ。
マークス氏は低金利や金融緩和の弊害を多く挙げている。
同氏はシカゴ大学出身。
市場機能を阻害する、慢性的な金融緩和に極めて否定的だ。
マークス氏は、今後は米金利が以前より高いレンジに移行すると予想し、いくつも理由を挙げている。
これは、現在のいいとこどりにさえ見える株式市場とは温度差がある。
マークス氏は現状の「コンセンサス」の変遷を解説する:
- 18か月前: 急激なFRB利上げが2023年の景気後退入りをもたらすと考えられていたが、ハズレ。
- 12か月前: FRBが2023年中に利下げを始めると考えられていたが、ハズレ。
- 6か月前: 2023年中にあと1回利上げがあると考えられていたが、ハズレ。
コンセンサスが外れるたびに株式も債券も右往左往してきた。
現在の強気相場は6か月前のコンセンサスが外れたことで始まり、目下のコンセンサスは12か月前のもの(の期ズレ版)に戻ったのである。
マークス氏は現状のコンセンサスを「ゴルディロックス思考」と呼び、こう描写する:
- インフレは低下、2%に近づいている。
- 追加利上げは必要なくなる。
- 景気後退は浅い、または訪れず、ソフトランディング。
- FRBは利下げが可能に。
- 経済・市場にとって追い風に。
マークス氏はこうした考え方に懐疑的だ。
「職業人生の中で何度かゴルディロックス思考を目にしてきたが、ここまで長く続くのは珍しい。」
昨年5月、マークス氏は「潮目が変わった」と題する書簡を顧客に送り、10月に公開している。
今回のMemoでは、その変化をまとめている。
- 1980-2021年は金利低下・超低金利の時代だった。
これが投資の勝者・敗者を決めるなど多くの深い影響を及ぼした。 - 2022年にFRBがインフレ退治を開始すると、状況は一変。
- (マークス氏予想)今後は一時的な不況対策を除き、以前のような金融緩和には戻るまい。
以前より金利水準は上昇し、異なる投資戦略・資産配分が必要となる。
さて、話を現状の「ゴルディロックス思考」に戻そう。
同思考はマークス氏が予想する潮目の対極にある考え方と言える。
オークツリーはマクロ見通しに基づいた投資は行わないのが社是だから、同氏は「上記のコンセンサスが正しいかどうかについて意見は持たない」と書いている。
そして、その直後その意見(予想)を述べている。
- 仮に現状のコンセンサスが正しいとしても、今後数年の金利は0-2%でなく2-4%。
- 今後5-10年、FF金利の平均は3.0-3.5%。
こう書かれると、市場が殊更に楽観的とも思えない。
このあたりがマークス氏が「意見は持たない」というゆえんだろう。