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ハワード・マークス リスクとの付き合い方:ハワード・マークス

オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、ベストセラー作家モーガン・ハウセル氏と5月のMemo「債務のインパクト」に関連するテーマで対談を行っている。
同対談からマークス氏の発言をいくつか紹介しよう。


すべての投資家はある時点で最適化と最大化のいずれかの選択を迫られる。

マークス氏が対談で、投資家の通る道について語った。

  • 最適化: 成長しようとするが、長期で継続できるような目標とする。
  • 最大化: なるべく早く大きな成果を上げようとする。

もちろんマークス氏は「最適化」の方を選択した投資家だ。
ただし、この2つの道は必ずしも完全に背反するわけではあるまい。
持続性をどれだけ重視し、制約条件とするか、程度の問題なのかもしれない。

マークス氏は「金融の世界で知っておかなければいけない90%」を表す格言を紹介している。

『身長6フィートの人が平均5フィートの深さの川を渡ろうとすれば溺れてしまうことを忘れるな。』

山谷があるのが金融・投資の世界。
溺れるのは川の深い部分であり、平均の議論には意味がない。
だから、平均を根拠に投資行動をしてはいけないと言いたいのだ。
マークス氏は「状況が不利になった時に備える必要がある」とも語っている。

そんなことは当たり前だとみんなが思っている。
しかし、実際に投資の世界で溺れる人は少なくない。
マークス氏は、度々紹介しているジョン・K・ガルブレイス著『バブルの物語』を引いて、投資においては顕著に人々の記憶が短い、つまりみんな忘れっぽいことを指摘する。

極端によくない出来事は・・・それは歴史の一部だが、すぐに忘れられる。
よくない出来事の記憶があり繰り返し話す人は、時代に取り残された老人、新たな産業・新たな金融メカニズムなどの素晴しさを評価できないと退けられてしまう。

マークス氏は特に、好況の際によくない過去の出来事が忘れられやすいとし、慎重と貪欲のバランスを取れるよう「成熟かつ大人」にならないといけないと話している。
ただし、同氏がこう言う背景には、往々にして未熟な子供の投資家が多いという現実がある。
対談のテーマ、債務やレバレッジに照らして言えば、よい時期にはどんどん債務が増やされレバレッジが上昇していくのだ。
結果、景気・市場は循環することになる。

すべては上昇時にうまく行き、人々はもっともっとリスクを取り、人々が落胆すると状況はひどくなり、底に行きつくまで落ちていく。

マークス氏がこうした話をする背景には、過去十数年と比べて下振れリスクが大きくなっていると感じているからだろう。
同氏は、お気に入りのマーク・トウェインの言葉「歴史は繰り返さないが韻を踏む」を紹介、人々の振る舞いがサイクルごとに韻を踏むと指摘し、温故知新を奨めている。
ただし、単純に粗く過去を現在に当てはめることは奨めない。
あくまで歴史は「韻を踏む」だけだ。
だから、過去の似た局面を振り返る時、現在とどう異なるかに注視すべきと話している。

ここまで聞くと、いつもの老人のお説教に聞こえてしまうかもしれない。
特に日本では1980年代終わりのバブルの後、深い傷を負い「あつものに懲りてなますを吹く」ような個人投資家・経営者も多かった。
不思議なことに、日本人はとても記憶がよかったのだ。
そもそもリスクがいやならマークス氏のようなディストレストの投資家などできない。
おそらく株式の投資家もできないだろう。
実際、日本人の株式投資はバブル崩壊後、極めて長い間大きく後退した。
(これはおそらくビジネスと経営者にも当てはまる。)

(次ページ: 投資とリスク管理の本質)


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