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【メモ】老後資金はどの順で取り崩す?:チャールズシュワブ

米オンライン証券大手チャールズ・シュワブが、年金・退職金の賢い受け取り方についてビデオを公表している。
日本とは制度の異なる国の話なので、すぐに役立つものではないが、アメリカ人がどんなポイントに留意しているのかがうかがわれて興味深い。


もちろん主たるテーマは節税だ。
なるべく税金を取られないように受け取るにはどうすればいいか、である。

まず、米国の年金制度について説明すると、ざっくり3つに分類される: 公的年金、企業年金、個人年金(IRA等)。
今回ビデオで検討の対象とされているのは、受給者が比較的自由に受け取り方を選択できる部分と一般の証券口座である。
これを運用時と給付時の課税ルールで分類すると:

課税タイプ 運用時 給付時
繰り延べ IRA、企業401k 非課税 課税
非課税 Roth IRA 非課税 非課税
課税 一般の証券口座 課税 課税

アメリカにもいろいろ制度があるんだな、ぐらいに思っておけばよい。
とはいえこれでは何にもイメージが湧かないから、日本人がイメージしやすいよう「例」の欄を日本における類似の口座タイプに置き換えてみよう。

課税タイプ 日本の例 運用時 給付時
繰り延べ iDeCo 非課税 課税
非課税 NISA 非課税 非課税
課税 一般の証券口座 課税 課税

さあ、こうなるとがぜんイメージしやすくなったのではないか。
要はiDeCo、NISA、一般の証券口座で老後資金を貯めた人が老齢となった時、どのような順で引き出せばよいかの話なのだ。

ビデオでは2つのやり方が提案されている。
1つ目は「伝統的アプローチ」で、とても直観的、いわば自明とも見える答だ。
まず「課税」タイプを崩し、次に「繰り延べ」タイプを崩し、なるべく「非課税」タイプを温存しろというものだ。
税金を避けようとするなら単純にこの順序が頭に浮かぶだろう。

2つ目は「比例アプローチ」だが、「非課税」タイプを温存すべしという点では「伝統的アプローチ」と同じだ。
違うのは、「課税」タイプと「繰り延べ」タイプを同時に崩していくというもの。
このやり方についてビデオはこう指摘する。

「この取り崩し戦略は潜在的に、引退時の課税所得をより平準化した形で広げる点で役立つかもしれない・・・
これは引退後の総納税額削減の手助けになるだろう。」

取り崩す対象が変わる時点で発生する課税所得の大きな変化を避け、適用される税率もなるべく低く抑えようというもの。
アメリカ人はいろいろ科学的に考えているのだ。
こうした引退後の税務計画などは、日本人が最も苦手とするところのように思う。
特に、税金ではなく社会保険料の形でこっそり実質増税を進めようとするような国では重要な視点だろう。

このビデオの手柄は、直観的に納税を後倒し・節約しようというのでなく長期目線で考えなさい、というところだろう。
何事も勉強と計画が大事、という前提もあろう。

1つ最近の日本でよい変化と言えるのは、NISAが使いやすくなったことだろう。
特に、投資対象の制約が比較的少ないのは、使い勝手がよい。
この「非課税」タイプの口座は(制度が後退しない限り)最後まで温存されるべき《公認タックス・ヘイブン》の役割を果たしてくれるだろう。
(多くのFP読者にとっては金額が物足りないだろうが、やりすぎれば格差拡大策になりかねないからしかたない。)

一方で、こうした《勉強と計画》には落とし穴もある。
制度や社会とは常に変わり続けるものということだ。
SFにありそうだが、日本が荒廃する近未来、NISAの取り崩し時に課税・収用をしないとも限らない。
相続などにも言えることだが、計画時とは異なる将来がやってくるかもしれない。
また、人によって年金・退職金以外の状況は異なり、単純な一般化はできないかもしれない。
あまり細かく思い込まず、大枠を理解したら詳細は老いてから考える、といったいいかげんさも必要だろう。

ちなみに弊社内で「どういう順序で取り崩す?」と尋ねたら、現制度ならばNISAは最後とのこと。
最初に崩すのはiDeCoだそうだ。
投資は、節税できるかどうかで投資先を見つけるものではなく、投資したいかどうかで選択したいとの意見で一致した。


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