金融引き締めの主役は日銀ではなく政府
円相場の基調的水準は変化したのか。
重大な制約条件は、日銀の有する金融引き締め余地だ。
政府も日銀も財政従属という言葉を使うことはないだろうが、現実の問題として日本が耐えられる金利には上限がある。
物価や為替だけに目をやった結果、《国破れて山河在り》では笑い話にもならない。
利上げの限界は内外金利差やインフレ抑制の余地を決める強力な要因となろう。
仮に日銀が今回の円安に機敏に対応したとしても、やれることはとても小さかったのではないか。
仮に日銀が本格的な金融引き締めを考えるなら、実は引き締めを行うのは日銀ではなく政府になる。
金利を引き上げるなら、莫大な政府債務をいくらか減らさないといけない。
量的引き締めを行うなら、長期国債の需給が緩まないよう、政府が長期債務を減らさないといけない。
恥も外聞もなく保身に明け暮れる指導者たちに《痛みをともなう改革》を実行する能力、意思はないだろう。
今のところ状況は改善より悪化に向かっているのだと思う。
悪化したのは政治だけではない。
日本経済そのものの構造変化が円安を引き起こしやすくしている。
ファンダメンタルズ悪化:佐々木融氏
ふくおかFGの佐々木融氏は、日銀政策決定会合前に円安進展を予想した少数派だった。
結果は、見事予想的中だ。
同氏がReutersに書いていた。
「円のファンダメンタルズ悪化は深刻で、日銀が多少金利を引き上げた程度で以前のような円高トレンドに転換するのは無理がある。
・・・今は国際収支や実質金利といった円を取り巻く環境が完全に変わってしまっているので、以前のような円高トレンドに転換するのはかなりハードルが高い。
日銀が動いても円高にならなかったことで、円ロング・ポジションの手じまいを余儀なくされたのだろう。」
典型的な「sell the fact」の展開だったのであり、円安には構造的要因が強く効いているのだ。
ドルもまた危ういかもしれない
最初に示したドル円と円の実質実効為替レートのグラフに戻ろう。
概ねバブルの頃から乖離が進んでいる。
これが示すのは、円だけでなく米ドルもまた危うい通貨かもしれないということだ。
ドル円ではそんなに極端な円安ではないのに、円は大きく下がっている。
つまり、ドルも下がっているのである。
そもそもNo.1準備通貨は緩やかに減価することが望まれる。
世界経済の拡大とともに準備通貨への需要も拡大する中で、世界経済を引き締めないためだ。
さらに今、米国は財政状況で日本の背中を追っている。
しかも、趨勢的に米国は日本より金利が高く、利払い負担を強く感じやすい。
今でこそ近年の財政拡大が効いているが、いつかは逆回転を始めるだろう。
ある程度の財政再建が必要となり、それが景気に悪影響を及ぼすのだろう。
中長期で見て、円も米ドルも厳しい材料が目に見えている。
もちろん好ましい材料も出てきてはいるが、すべては比較の問題。
ドル円だけで見ていては明らかに不十分だ。
では、どの通貨・経済がいいか。
これが投資家にとっての継続的なタスクになる。
参考:
【データ】益回りスプレッドとリスクプレミアム(2023年10月)
【データ】国別経済データ(2023年10月)