IMFのシニア政策アドバイザーなどを務めたUC Bercleyのバリー・アイケングリーン教授が、次期大統領の企図するドル安誘導の行き先を占っている。
トランプがドル安をもたらすことができるかとの問いに対しては、答は明らかにYesだ。
しかし、そうすることで米国の輸出競争力が向上し米国の貿易収支が強化されるかといえば、それは別の問題だ。
アイケングリーン教授がProject Syndicateで、次期大統領のドル安志向に疑問を呈した。
そもそもドル安が米経済を改善するかどうかに疑問を呈し、さらに具体的な手法についても問題点を指摘している。
状況は異なるものの長く円安を誘導してきた日本にとっては他山の石とすべきところがあるかもしれない。
アイケングリーン教授は、ドル安誘導のための具体的手法を検証しているが、これが微笑ましい。
- 金融緩和: インフレが加速しドル安の効果が減殺され「国際競争力や貿易収支の改善とはならない」という。
- 国外公的機関への米国債利払いへの課税: これは、諸外国の対米貿易黒字の結果増加する米国債投資にペナルティを課そうというアイデア。
国際緊急経済権限法(the International Emergency Economic Powers Act)に基づき実施するのだという。
ただし、実施すれば国債の買い手が減り、金利が上昇する弊害があるほか、保有の1/3を占める個人投資家には無関係。
関税を脅し文句に使っても、個人には効かないだろうという。 - 為替介入: インフレを招く。不胎化すれば効果は小さい。
なんとも微笑ましい議論だ。
そもそも次期政権の政策については、ドル安を望む一方で、緩和的金融環境を望んだり、諸外国からの資金流入を必要としたりと、支離滅裂の感がある。
理屈に基づかないまま対症療法だけを主張しているように聞こえる。
だから、いすれの手法も矛盾をはらんでしまう。
結果、アイケングリーン教授が予想する手法は「マー・ア・ラゴ」合意になる。
最近、ヌリエル・ルービニ教授が、大きな合意はいつもリゾート地で結ばれると話していた。
次は次期大統領のフロリダの別荘で、ブレトンウッズ、プラザ、ルーブルなどに続くことになるという。
アイケングリーン教授も、ニクソンショックやプラザ合意に続く合意がマー・ア・ラゴ合意になると予想している。
ただし、今回は相手方の状況が異なるという。
- 1971年: 欧・日の経済が強く、通貨切り上げの余裕があった。
- 1985年: デフレではなくインフレが問題で、金融引き締めの余裕があった。
アイケングリーン教授によれば、現在は諸外国に余裕がなく、各国が「金融引き締めによる経済の危険とトランプ関税による損害を秤にかける」ことになるという。
教授は、欧・中の対応を次のように予想する:
- 欧州: 関税や安全保障との引き換えで、金融引き締めの要求を受け入れる。
- 中国: 米国とのデカップリングも辞さず、米国の要求を拒否する。
残念なことに、アイケングリーン教授は日本については言及していない。
日本には通貨高と金融引き締めに前向きになれる理由が存在するものの、それでも有意な幅の金融引き締めには応じがたいのではないか。
結果、アイケングリーン教授は、マー・ア・ラゴ合意の結末を次のように予想する:
予想されるマー・ア・ラゴ合意は米欧間の2当事者間合意に矮小化される。
欧州にはかなりの害となるが、米国によいことはほとんどないだろう。