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【短信】最後にやってくる市場崩壊:ナシーム・ニコラス・タレブ
2024年10月13日

『ブラック・スワン』amazonのリンクの著書で有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏が「今世紀最大の金融上の過ち」について語っている。


21世紀で最大の金融上の過ちの1つが、ウクライナ戦争以降の資産没収だ。
・・・米国は欧州を脅して資産没収に参加させたが、中にはロシア政権との関連があいまいな関係者もいた。
正義の観点からは意味があるのかもしれないが、これは現システムへの投資を消極化させる。

タレブ氏がBloombergで、世界の抱えるリスクについて話している。
1つ目が政府の財政問題で、2つ目がドル決済システムだった。

「取引はまだドル建てで行われているが、いたるところで(価値の)保蔵が金で行われることが増えている。
中央銀行も個人も現在のシステムから逃げ出したがっている。」

タレブ氏が懸念するのは、ドル資産が財産の置きどころとして嫌われ始めているという点だ。
取引は当面ドル建てが優勢だろうが、次第にその分野でもドルの地位が低下すると心配している。
キャスターから「金投資にどれだけ積極的なのか」と尋ねられると、話題はいっそう深刻な方向に向かった。

金を買いたいという話ではなく、私が注目を深めているのは最後にやってくる市場崩壊に対するヘッジだ。
過去20年間、もしかしたら30年間のどの時期より現在は脆弱な状態にある。

タレブ氏は、危機が起こるのは、皆が予想せず、守りをやめ、過剰なエクスポージャーを持った時だと話す。
現在は「以前の崩壊の時の状況にとても似ている」のだという。

「以前のように、市場が悦に入り、最初は慎重でも、警戒心を捨ててしまい、さらに上昇する。
その時こそ脆弱性が最大になる。」

タレブ氏は、低金利が人々の投資を保守的なものから値上がりしやすいものへと変えたという。
低金利がもたらした資産価格上昇につられ、投資人口はどんどん増え、人々は投資に慣れきった。
低金利が終わった今では手遅れの投資先に投資を続けているという。

「この脆弱性が現実になるのに必要なのは、ほんの小さな視点の変化だけだ。
バリュエーションは高く、期待が積み上がり、経済は見通しにくい。」

キャスターが1つ目のリスクに戻り、米国の債務発行は持続可能かと尋ねると、タレブ氏は、それこそが最大の懸念だと答えている。

誰も(没収で)お金を取り上げられたくないだろう。
1回やってしまうと、2回やるかもしれない。
それが大きくドルと米国を傷つける。

今年6月のG7は、凍結したロシア資産を使い、500億ドルのウクライナ支援を行うことで合意した。
欧州がロシア資産の没収に反対の立場をとったため、凍結資産の利子部分を活用するスキームとなった。
ウクライナ向け融資の調達コストに凍結資産の利子を充てるというものだ。

タレブ氏が触れたように、ロシア政権と関係の薄い人の資産まで凍結されているなら、これは正義の観点からも気の毒ということになる。
そもそも、ロシア向け制裁のような取引禁止措置には問題が多い。
政治と関係なくロシアで事業を営んだり投資をしていた企業・投資家まで、投資回収ができない状況に置かれている。
制裁する側が制裁される側より金持ちの場合、制裁する側が回収できない部分の方が大きくなりがちだ。
没収・凍結・禁止をする場合、味方の被害が大きくならないようやり方に配慮する必要があろう。
まして味方が有する最大の経済的武器を損なうなら、もはや自爆攻撃に近くなってしまう。


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