ショートセラー ジム・チャノス氏が現市場に残る投機的兆候を指摘し、次に起こる兆候について予想している。
「医療保険や防衛費のようなもっと深刻な項目に踏み込むまでは大きな歳出削減には至らないだろう。
まだトランポノミクスの政治劇の序章にすぎない。」
チャノス氏がBloombergで。米財政再建の現実を語っている。
多くの人が心配する米財政悪化に関してイーロン・マスク氏が主導する政府効率化省への期待が高まるが、大きな削減余地のある分野は反対も激しくなるとの見方だ。
チャノス氏は現在の政治・市場に関して危機感を滲ませる。
「私が目にしたことのない心理が展開している。
みんな真実でないことを信じようとしている。」
例えば企業経営の分野では、経営者が簡単に大風呂敷を広げて話をする風潮があるという。
「私がいつも言ってきたのは『強気相場は約束で(株価に)プレミアムを乗せ、弱気相場は現実で割り引く』ということ。
今はたくさんの企業がたくさんの約束をしている。」
経営者がバラ色の将来を語る風潮がある一方、近年チャノス氏のキニコス・アソシエイツをはじめとしてショート型ファンド(割高銘柄をショートしインデックス等をロングするような戦略)の廃業が目立っている。
ほとんどの人の予想を大きく超えて続いた強気相場の中で「たとえヘッジされたものでもショート型ファンド商品へのニーズは小さい」とチャノス氏は認めている。
同氏は、ヘッジファンド業界が正味のエクスポージャーを抑えつつリターンを上げる姿からロング中心へと変貌したと述べている。
今はファミリーオフィスで投資を続けるチャノス氏は、それでもショート型の存在意義を主張する。
「保険の市場は常に存在する。
ファンダメンタルズが良好なショート・ポジションは、より大きなロングを可能にしてくれる。」
チャノス氏は、ショート型のスタイルが今でも有効であると主張している。
GameStopの急騰以降みんな『空売りは死んだ。リスクが高すぎる』と言ってきた。
ゴールドマン・サックスのMost Shorted Stocks IndexをショートしてS&P 500または似たパッシブ指数を買って毎月リバランスしたとすると、目覚ましいリターンが上がっている。
だから、今もアルファはショート側にあるんだ。
実際にはショート側にアルファが存在するのに、強気相場の中でロング側のベータへの報酬が大きいために、それに気づいていないとの主張だ。
チャノス氏は、そうした状況が今後変わりうると話している。
同氏はミーム株やSPACがブームとなった2021年を「経験した中で最も投機的な市場だった」と話すが、現在もまだ「投機」は残っているという。
そして、次に起こる投機的市場の兆候を予想している。
2021年に兆候があったもののまだ起こっておらず、すぐに起こると推測しているのが大量の証券発行だ。
常に言われていることだが、ウォール街もFRBと同様輪転機だ。
いったん輪転機が回ると概してみんなお腹いっぱいになり、2022年に見られたように荒天で終わるものだ。
チャノス氏は、長い強気相場で拡大したパッシブ投資の弊害について尋ねられると、パッシブ投資では、みんなボートの片側から反対側へ殺到しがちだと話し、さらに社会や経済に及ぼす影響について話している。
「別個に価値評価を行わないなら、これはフローの問題だが、資本主義やそのシグナルを発するメカニズムが壊れてしまう。」