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【短信】流動性の支配という怪物:モハメド・エラリアン

アリアンツ主席経済顧問モハメド・エラリアン氏が、4日発表の9月雇用統計についてコメントした。
同統計は特に非農業部門就業者数で予想を大きく上回っている。


9月の雇用統計は

  • 非農業部門就業者数前月比: 254千人(市場予想140-150千人)
  • 失業率: 4.1%(前月比-0.1%ポイント、市場予想4.2%)
  • 平均時給: 前年同月比+4.0%、前月比+0.4%

となった。
失業率も2か月連続で改善。
先月FOMCは経済に配慮して50 bpの利下げを行ったが、あたかもフェイントにかかったかの展開だ。

エラリアン氏はBloombergで、結果から導かれる4つのポイントを解説した。

  • 労働市場: 良好。「額面通り受け取るならサイクル終期の強い労働市場」
  • 経済: 米国例外主義が継続
  • FRB: インフレが終わったとの見方は時期尚早
  • 市場: 過剰な利下げ期待

エラリアン氏は、従前どおり、米経済が「流動性の支配」にあるとし、流動性の要因がファンダメンタルズより優先されていると危ぶむ。
先月のFOMCについて市場が50 bpの利下げを織り込んだのも、経済データによるものではなく、FRBのリーク報道によるものだったと指摘。
今も金融政策だけでなくそれを先取りする金融市場が大量の流動性を生み出していると話す。

流動性の支配という怪物に餌を与え続けるのではないかと心配だ。
いつか、インフレが2%で安定しない、あるいは、過度なリスクテイクにより金融不安定が起こり、後悔するのではないか。

エラリアン氏は同番組で、従前からの景気見通しを変えないと話している。
ソフトランディング55%、過熱のないノーランディング15%、景気後退30%の確率である。

エラリアン氏は引き続き慎重だが、今回の1データを見る限り米市場のソフトランディング予想は強まるのだろう。
(実際に4日、株は買われ、債券は売られた。)
そうすれば、1990年代後半のインフレなき景気回復の再来さえ期待されるかもしれない。
もちろんその先には「過度なリスクテイク」によるITバブルがあり、その崩壊という「金融不安定」があった。

当時と決定的に違うのは米財政だ。
1990年代後半は米連邦政府が財政再建を実現した時期。
当時はFRBプットも財政プットもあった中でリスクテイクがやりやすかった。
現在は、昨年までの急激な利上げのおかげでFRBプットの余地こそ大きいが、財政プットについては不透明だ。
ただし、財政の制約が本格的に効いてくるのは米政府が財政再建に舵を切った時。
また、今後米インフレが大きく上昇するなら、その原因は雇用よりもドル安やコモディティ高の可能性の方が高いかもしれない。
米経済が強いうちは大きなドル安とはなりにくいだろう。
米市場が心配の壁を登りバブル的な展開を見せる可能性が高まったのかもしれない。


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