ジェレミー・シーゲル教授が、10日発表の12月の米雇用統計にコメントし、米国株市場の調整の可能性について再び言及した。
10日発表の12月の米雇用統計は
- 非農業部門就業者数前月比: 256千人(市場予想は160-165千人)
- 失業率: 4.1%(前月比0.1%ポイント低下)
- 平均時給: 前年同月比3.9%増(市場予想は4.0%増)
だった。
予想より強い結果から粘着的なインフレへの懸念が強まり、利下げ期待後退、長期金利上昇が意識され、市場は株安・ドル高で反応した。
シーゲル教授はCNBCで、株価についての最も単純なモデル
株価 = EPS/割引率
を用いて解説している。
強い雇用は良好な景気を暗示しEPSにもプラスのサインだが、同様に金利上昇にともなう割引率上昇の要因となる。
この分子と分母が綱引きをしている。
シーゲル教授は10日の市場の反応について「今日は分母が分子に勝った」と素直に解釈した。
市場は『おそらく2025年には利下げがない』と考えているのだろう。
そして、10年債利回りがとても容易に5%を超えうると考えているのだろう。
シーゲル教授は、従前からのタームプレミアムについての観察を繰り返す。
過去50年、通常の景気状況では、FF金利と10年債利回りの差は1.0-1.5%だった。
現状のFF金利4.3%から足算すれば、10年債利回りは「5、5.5、5.75%」と計算されるとし「それが通常の期間構造だ」と説明した。
シーゲル教授は日頃から、金利上昇がEPS上昇も示唆すると言ってきた。
今回の解説で言えば、分母だけでなく分子も上昇するから、あながちネガティブではないという話だった。
しかし、最近は金利上昇への警戒感を強く滲ませることが多くなっている。
つまり、分母の上昇が勝ってしまう可能性を無視できなくなっているようだ。
1つの理由は、景気・株価を下支えするはずだったFRB利下げが遠のいていくと感じている点にあろう。
シーゲル教授は3-12か月の間に何が起こるか予想するのは難しいと前置きをした上で、先物市場への織り込みやリスクプレミアムを見る限り、利下げの織り込みは消失したと指摘した。
本日11日正午時点のCME Fedwatch Toolによれば、今年12月についてFF金利先物市場が織り込むFF金利のピークは、利下げ(25 bp)2回分(3.75-4.00%)ないし1回分(4.00-4.25%)のところにある。
ピークは1か月前と比べ約1回分少ない方へ移動している。
シーゲル教授はこれまで、FF金利先物市場には利下げ1回分程度の下方バイアス(上述のリスクプレミアムに該当)がかかっていると指摘してきた。
利下げの根拠である景気・市場の鈍化・悪化に対する心配から、短期金融商品が買われるためだ。
CME Fedwatchが示すのは年内1-2回の利下げ予想だが、教授のいう下方バイアスを考慮すると0-1回にとどまると解釈されることになる。
シーゲル教授は昨年末頃から、今年米国株に調整が入る可能性を指摘してきた。
一方で、現在20程度のVIXは市場でヘッジが多く行われていることを示しているとし、弱気相場が起こりにくいとも指摘してきた。
10日も同様の観点から、調整が入っても「大きな崩壊にはならない」と話している。
ただし、金利上昇が悪影響を及ぼす範囲については厳しい見方も示している。
テック株については割引率上昇を通して、小型株には調達金利上昇を通して、下押し圧力になるという。
シーゲル教授は、強い雇用統計の中でも落ち着きを見せている平均時給に注目し、米金融政策の立ち位置を推測した。
「現在は賃金(上昇)圧力の状況ではない。
この金利で経済が拡大するのはすごい。
今は中立金利r*にとても近く、金融引き締め的だとしてもほんのわずかだろう。」