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【輪郭】円安は輸出を利さないというメッセージをどう聞くか

JETRO石黒憲彦理事長(元経済産業審議官(経産省No.2))がCNBCのニュースに出演していた。
CNBCの注目点がどこにあるのかが少し気になった。(9月3日 浜町SCI)


インタビューの全体像は明らかでないが、公式YouTubeチャンネルで公表されたのは3分10秒、3つのテーマが語られた部分だ。

3つのテーマとは

  • サプライチェーンの多様化の必要性
  • 米国の通商政策の注視
  • 日本の輸出企業への円相場の影響

ビデオのタイトルは「日本の輸出は円安の恩恵を受けていない:JETRO」となっている。
つまり、この3つの中でCNBCは3つ目のテーマに最も関心を持ったわけだ。
ここでの石黒氏の発言を紹介すると

「現実には円安は日本の輸出に恩恵をもたらしていない。
日本の大企業はすでに海外に工場を開設し、製品を製造し、海外に販売している。
一方、日本の国内製造業はエネルギーや資源を大きく輸入に依存しており、これが意味するのは、公共料金・運輸・原材料の円建てコストを上昇ささせるということだ。」

端的にファクトを回答している。
業種により差はあれど、これがコンセンサスの見方だろう。

メーカー勤務の経験から付け加えるなら、製品の棲み分けの要因が大きい。
製品は仕向け地別に違いがあることもあるし、どこで作るのかで有利・不利が出るものも多い。
このため、日本の製造業は世界中で同じ製品を作るわけでなく、製品ごとに最適の製造拠点を選んでいる。
家内制手工業をやるなら別だろうが、特に大企業においては、円安が進んだとしても、簡単に海外生産を国内に戻すという話にはならない。

だから、円安になっても輸出数量が増えない。
円建ての単価が上がるなら企業にとってはプラスだろうが、往々にして外貨建てで見たら下がっていたなどということもありうる。
そのような場合は、良くない安売りが行われたのではと疑う必要があろう。

企業収益上の円安のメリットのもう1つは、海外での利益が為替換算上大きく見えるというものがある。
ただし、これは純粋に換算上の見た目であって、企業グループとしての利益が増えたわけではない。

(余談)インバウンド消費
 
もう1つの外需産業として注目されてきたのがインバウンド消費の分野だ。
これは、産業と政策支援の大きな成功例と言えるだろう。

特に、値上げをともなっているところが評価できる。
仮にこれが値上げをともなわない数量増であれば、ある種の悪い安売りになりかねなかった。
値上げをともなったことで、安売りでない数量増が実現し、これは日本にとってのプラスである。

一方、消費者として悲しいのは、特に観光分野において、貧乏な日本人が締め出しを食い始めている点だ。
周知のとおり、日本では賃金がなかなか上がらず、過去30年の実質での円安により、日本の賃金は多くの諸外国に大きく後れを取っている。
ホテル・外食は大きく値上がりしたが、賃金上昇は数%で喜んでいる始末。
結果、日本人が日本国内で外国人に買い負けする状況になっている。
大成功ゆえのオーバーツーリズムや値上げが、日本人の人生まで貧しくしかねない。

民間が国籍や住所で価格差をつけるわけにもいくまい。
まさか再び政府が「Go To Travel」をやるわけにもいくまい。

こう考えると、やはり政策の目標はインフレではなく、(少し中身を見なければいけないが)実質賃金上昇率であるべきだったのだと思う。
もしも、賃金と物価の好循環なるものがありうるなら、まず賃金を政策で無理やり上げ、それによりインフレを誘因する方が理にかなってはいないか。
労働者を弱くして産業を強くするというのは真逆の方向性に聞こえる。

 

(次ページ: 「円安で儲からない」を外国人はどう聞くか)


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