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東京証券取引所アローズ 【Wonkish】「分散」という欺瞞。巧妙なレトリックにだまされてはいけない

【Wonkish】とマークしたとおり、投資のつわものの読者にとっては当たり前のことばかりなので、つわものの皆さんは読まないことをお奨めしたい。(浜町SCI 3月24日)
最近、特に国内のメディア、識者の言葉遣いに関して気になることがある。
「分散」という言葉がしばしば用いられるのだが、ここに危うさを感じざるをえないのだ。


なぜ「分散」がよく語られるようになったかは明らかだ。
内外の株価の見通しに少し陰りが見えてきたためだ。
だから《リスク分散を》という話になる。
このレトリックはウソや間違いとは言わないものの、かなり怪しげで誤解を招く可能性の高いものだ。
このレトリックを使う人には、単に無知な人もいれば、確信犯もいるのだろう。

《ウソや間違いとは言わない》理由は、言葉には使い方に幅があるためだ。
(確信犯はこの点を盾に事実上のだましを実行しようとする。)
厳密な議論をするために、ファイナンス理論での狭義の定義に戻りたい。
ここでは4つの概念を思い出したい。

効率的市場仮説

効率的市場仮説とは、金融市場にはすべての情報が直ちに適切に反映されているとする仮説。
この仮説を是とすれば、いかなる人も超過リターンを得ることができないことになる。
ファイナンス理論における仮説の実証においては、極めて長い期間にわたる成立が必要とされる。
理想的には、世界大戦を含む100年超にわたる証拠が必要とされるが、それほど整ったデータは得られないことが多い。

効率的市場仮説は、理論の上では相応に妥当だろうし、これをベースに思考を巡らすことは極めて有効だ。
しかし、私たちが向かいあう市場は、この仮説(ストロングフォームだろうがウィークフォームだろうが)に合っていない。
その大きな要因は、私たちの投資期間が長くて数十年であること、金融市場にはある程度の分断が見られることであろう。
高々数十年の間なら超過リターンを得る人は少なくないし、資産クラス別で見れば裁定が働きにくいクラスも存在し、数十年のホライズンで超過リターンの得られる市場もあるのだろう。

ただし、特定の明確な理由がある場合を除けば、実際の市場を《効率的市場をベースとしてそこからの若干の逸脱と捉える》のは現実的だ。
なぜかと言えば、効率的市場仮説が完全に無意味とするなら、私たちは市場のロジックのほとんどを無意味とみなすに等しいからだ。
市場は効率的ではないが、その挙動の多くには効率的市場の性質が含まれており、それを否定する必要はないのである。

半世紀以上にわたって安定的超過リターンを得ているような特別な投資家を除けば、効率的市場仮説は決してミスリードなものではない。
何が言いたいかと言えば、

 ほぼすべての人は市場の先行きを正しく予想できない

ということ。
あるいは、

 そう考えておくことが健全だ

ということだ。
これが完全に正しいとは思わないが、これが筆者の信念であり、実際に過去有効に機能したと思う。

(次ページ: リスクという言葉が混乱を招く)


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