ブリッジウォーター・アソシエイツが、クリントン政権で財政再建を達成させた2人の財務長官ボブ・ルービン、ローレンス・サマーズ両氏に足元のマクロ経済について聞いている。
「過去数年の主要経済統計の理解のしかたを考える時、2つの大いなる疑問、経済を長く見てきた者にとって驚くべき2つのことがある。」
サマーズ氏が近年のマクロ経済について語った内容がブリッジウォーターのウェブサイトで公開されている。
同氏が言及した2つのこととは、次の2つの傾向が今回実現していないことだ:
- FRBが1年半で5%も利上げすれば景気後退を引き起こす。
- 失業率が4%未満かつインフレが4%超なら、景気後退 and/or インフレ高止まり となる。
2つ目についてはまだ疑問のままだというが、1つ目については次の点によりFRB利上げの金融引き締め効果が低減したためという。
- 経済の構造変化によって低下したと思われていた中立金利が上昇した。
原因は財政政策、環境投資、高齢化による貯蓄取り崩し、AI関連のエネルギー投資など。 - 貯蓄/投資バランスの金利感応度が下がった。
工場新設なら金利に敏感だが、耐久年数5年のもの(車、携帯電話、ITシステム)を買うなら金利感応度は低い。 - 政府短期債務が増えたところで金利が上昇すると可処分所得が増える。
金融引き締めの効果を少し減殺する。
サマーズ氏は貯蓄/投資の金利感応度低下について、大きな需給ショックがなければディスインフレ、あれば高インフレに振れる可能性を指摘している。
仮に貯蓄/投資の金利感応度が下がれば、資本市場は原油市場や小麦市場と同様、比較的非弾力的な供給と比較的非弾力的な需要となり、これが需給ショックに対する価格ボラティリティを増大させる。
これが過去の年月に起こってきたことの一部であり、それにより2010年代は好況でもインフレとならなかったし、現在景気収縮が起こっていないのだ。
サマーズ氏は、ディスインフレ、インフレ急騰、インフレ低下のプロセスを次のように解説している。
- 30年間の物価安定がインフレ期待を固定し、ディスインフレが起こった。
- 第2次大戦時の半分に匹敵する2021-22年の財政出動で総需要ショックが起こり、物価上昇圧力がかかった。
- FRBの劇的な引き上げでインフレ期待は以前より固定され、さらにプラスの供給ショックがあり、インフレが下がった。
今はインフレ低下の方向にあるが、先行き需給にショックがあってもおかしくない状況を考えると、サマーズ氏のインフレ予想はこうなる:
中立金利4%台で、これまで供給ショックの恩恵を受けてきたと思い、次に何が起こるかわからないなら、もっともありえそうなのが、今後18か月でFRBが225 bpの利下げをすることとは考えない。
だから、市場期待よりインフレ低下は小さくなる方に賭ける。
市場予想に比べて利下げは浅くなり、インフレは高止まりするとの予想だ。
サマーズ氏の前任の財務長官だったボブ・ルービン氏は、「みんな経済におけるFRBの役割を誇張している」と話している。
米経済にはまだ勢いがあるとの見解で、FRBは多くの要因の1つに過ぎないとし、現時点で最も心配なのは選挙だと話している。
特に、トランプ候補の政策にインフレを助長するものがある点を心配しているようだ。
ルービン氏は特にインフレ再燃を心配している。
「もしも私がFRBだったら・・・景気減速が深刻になりすぎる可能性も心配するだろうが、それよりインフレを心配するだろう。
もしもインフレが再上昇すれば、これはボルカーから言われたことで、忘れることはないが、インフレは手に負えなくなりうる。
インフレ期待や心理は、景気後退よりはるかに扱いが難しい。」