資本コストと期待リターンはヤヌスの顔
前段の資本コストの議論で強い違和感を覚えた人もいるはずだ。
老婆心ながら、その疑問を解説しておきたい。
株主資本コストとは何なのか。
最も直接的な答は、企業が株式で調達するコストとなるが、具体的には何のことなのか。
企業が株主に払うのは(自社株買いを除けば)配当だ。
では、株主資本コストとはDOE(株式資本配当率、配当総額 ÷ 株主資本)なのか。
そうではないだろう。
内部留保する分だって、多くは株主の財産になるのだから。
では、ROEなのか。
それじゃ、エクイティ・スプレッドはいつもゼロになってしまう。
株主資本コストとは、株主が株式を保有することで負うリスクに見合ったリターン率のことだ。
(教科書的にはCAPMで計算されるが、かなり大雑把な推計法である。)
株主が当然に望むリターン率だから、企業の側ではそれに応えようとする責任を負う。
株主からみれば株式の期待リターン。
企業からみれば株主資本コスト。
均衡状態ではこの2つのものは同一になる。
前段の株主資本コストの議論に、株主の期待リターンを代入してみると
配当性向が上がる(内部留保が下がる)ことは株主の期待リターンの増大要因だが、gが減ることで株主の期待リターンの減少要因になる。
逆もまた然り。
これなら直観的にわかりやすいのではないか。
手前のキャッシュフローと遠い将来のキャッシュフローの間のトレードオフを語っているのだ。
エクイティ・スプレッドの式が教えること
最後にエクイティ・スプレッドの式を見ておこう。
エクイティ・スプレッド = ROE ×(1 – 配当性向 ÷ PBR)- g
各変数がエクイティ・スプレッドに与える影響は
- ROE上昇は拡大要因
- 配当性向上昇(内部留保縮小)は縮小要因
- PBR増大は拡大要因
- g増大は縮小要因
前回記事で書いたとおり、PBRは手段ではなく結果だろうから気にすべきではないだろう。
ROE上昇が望ましいのは言うまでもない。
問題はやはり配当性向とgのトレードオフだ。
(配当性向とgが独立変数でないため、それを看過するとメッセージが逆になってしまう。)
すでにきちんとやっている企業ほどすでに最適解に近づいているのだが、実際にどこかを見極めるのは至難の業だ。