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まだ株式の方がはるかに良い:ジェレミー・シーゲル

一方、同じ状況を目の当たりにして、特に中長期で警戒感を強める人も少なくない。


《バリュエーション学長》の異名をとるアスワス・ダモダラン教授もその1人。
教授は、定期的に計算し公表している株式リスクプレミアムが極めて低い水準にある点を警戒している。
株式リスクプレミアムは、債券に比べリスクが高いとされる株式を保有する時に得られるプラスアルファのリターンだ。
これが小さいとは、株式投資がリスクに見合ったリターンを返せていない可能性を示している。
ダモダラン教授はもちろん、すぐに株が下がるとは言わないが、長い目で見れば過去の水準に中央回帰するだろうと示唆している。

バリュエーションをざっくり検証してみよう。
米国株のPER 22倍が何を意味するか。
この逆数、つまり益回りをとると4.5%超となるが、これはしばしばシーゲル教授が株式の実質期待リターンの予想に用いる数字だ。
現状の米物価連動債利回りは2%超。
ここから計算される株式リスクプレミアムは3%超。
株式投資で取るリスクに対して3%超は小さすぎないか、という話になる。
もちろん、米市場には高い銘柄群も安い銘柄群もあり、高い銘柄群には高い理由がある。
こうした目の子計算で判断するのは難しい。
ただし、見過ごしていい話でもない。

もちろんシーゲル教授はこうした現状を知った上で、それでも強気スタンスを続けている。
教授が強気スタンスを述べる時、ほぼ必ず「まだ」(still)という言葉を用いるのがその証拠だ。
このポッドキャストでも、いつかやって来るピークアウトを意識した発言をしている。
2000年のITバブルを回想し、S&P 500のCAPEレシオ(シラーのCAPEではないと言っている)のピークが2000年3月の28-30倍だったと話す。

そういう場合なら『どんな小さな失望でも引き金になりうる』と主張できるだろう。
まだそこまでではない。
経済が強い中で、『より高くより長く』またはさほど低くないFF金利を市場は消化していかなければならない。

ちなみに、ロバート・シラー教授が計算・公表する10月のCAPEレシオは36.85倍。
ITバブルでのピークは1999年12月の44.20倍。
S&P 500のピークは2000年3月で、同月のシラーCAPEは43.22倍。
シラーCAPEレシオで見て、ITバブルのピークの水準はあと2割程度ということになる。
人々感じ方はそれぞれだろうが、決して余裕があるとは言えない水準かもしれない。
(もちろん、いつものシラー教授の口癖によれば、どんなにCAPEが高くても市場はまだ上がりうる。)

もう1つ注意すべきは、シーゲル教授が長期金利上昇を予想するなら、それは債券安を意味する可能性が高い。
株式と債券を天秤にかけてまだ株式が魅力的という場合、それが安くなる債券との比較なら、株式の絶対的魅力はそれに応じて割り引くべきだろう。

また、日本人投資家にとっては、弱気相場でしばしばリスクオフの円高ドル安圧力が働く点にも注意したい。
《踊り続けなければいけなくても、出口の近くで踊れ》を忘れてはいけない。

このポッドキャストではゲストを交えて暗号資産やAIについて議論が交わされている。
スコープの広い回となっているので、原典を聴かれることをお奨めしたい。


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