もちろんこうした政策には弊害がある。
債務者(最大の債務者は政府)が実質的な負担を軽減されるなら、反対側に損をした人がいる。
「(2013年以降)金利低下と通貨減価の組み合わせにより、日本国債は最悪の富の保蔵手段となった。
米国債と比べると45%、金と比べると60%の損失となった。
これらや他の政策により、金利は平均で米金利より約2.2%低くなり、円は米国と比べ実質ベースで年平均5.5%減価した。
・・・『こうした時期に国債を持つな』の原則が鳴り響くようだ。」
さらにいくつかこの時期に起こったことが紹介されている。
「例えば、2013年以降、米労働者に対する日本の労働者のコストは合計で58%低下した。
同様に、日本国内でのコストは他国との比較で低下した。
これは日本の競争力を高めた。」
こうした競争力の高め方は、労働者を貧しくすることと背中合わせの現象だ。
「こうした低金利が(政府の)債務返済コストを大きく低下させ、2013年以降、日本(政府)の利払い費は50%超(2001年以降では65%超)も減り、債務返済が大幅に軽くなった。
政府の利払い負担が楽になるとは、巡り巡って預金者らがその負担を肩代わりしたということ。
そして、そのいわゆる金融抑圧は功を奏したという。
結果として注目すべきは、この期間(2013年以降)の大きな債務増加と同時に、日本政府のバランスシートは改善した。
純資産(政府の資産マイナス負債)は現在2013年と比較してドル建てで20%もよい。
(主に2001-12年に)外貨準備が積み上げられていたこと、円安によりドル建てで見た日本の債務が減価したことが原因だ。
日本政府は円で調達しドルで運用する、いわゆる円キャリートレードで儲けたことになる。
調達金利はもちろん為替にも強い影響力を持っていた点を考えれば、あこぎなまでに確度の高いトレードだったのかもしれない。
ダリオ氏は、日本における敗者としてまず円建て債務性資産の投資家を挙げる。
これは日銀、円債保有者、円預金者などが挙げられよう。
同時に日本の労働者も敗者だと指摘する:
- 1人あたりGDPで見て日本はかつて米国より豊かだったが、今では60%も貧しい(半分以下!)。
- 25年前の平均月収は3,500ドル(金13オンス分)だったのが今は2,500ドル(金1オンス分)。
- 自動車を買う代金は月収の8か月分から9か月分に、コンビニ弁当は労働10分分から16分分に。
ただし、これでも国内物価の低さが悲惨さを和らげているという。
こうした解説を見るにつけ、実は見えない財政再建が進められていたことに気づく。
最近、政府が実質的な増税・社会保険料引き上げ・歳出削減を進めているが、そういう施策がなくとも、国民負担はインフレ税によって確実に増えていく。
それは、政府財政が悪化した国での必然なのだろう。
道筋の違いとは、制度変更によるならば負担増がある程度コントロールされるかもしれないが、インフレや通貨安に頼れば負担増がコントロールされないまま国民に降りかかるということだろう。
もっとも、政治に対する信頼が失われた今となっては、前者に期待する人も少なくなっているのかもしれない。