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アベノミクス以前のシナリオを見直してみよう

この10年余り(A)財政再建 と(C)インフレ税 に変化が見られた。


(A)で言えば、特に社会保険料を中心に国民負担が上昇し、近年はインフレにより実質的な税収増もあった。
社会保障では受益者に不利な変更も多く実施・検討されてきた。
この分野で前進がなかったのは、さらに肥大化した政府・歳出だろう。
パンデミック等やむを得ない理由はあったにせよ、お金をばらまくのが常態化し、しかも稚拙な使い方・使い道が目立つ。
結局のところ(A)という手法はMustではあるが、結果を期待しにくい手法なのだろう。

(C)については目覚ましい前進があった。
記事が書かれたのはドル円が1ドル80-90円の時代。
円の価値は対ドルで半分近くまで下落し、外貨準備は円建てで見れば急増したように見える(もちろん見えているにすぎない)。
最大の債務者としても国が経済的恩恵を受けている。
ついには円安による輸入インフレがホームメイド化し、国民は貧しくなった。
円の価値の目減りは預金者の購買力を奪った。
さらに、円金額の上昇は(制度・税率の変更がなくとも)税収を増やすことになっている。

短・中期的には(C)は景気後退とともに反転するかもしれない。
しかし、長期的・趨勢的に反転するとの理屈は見えにくい。
(A)については少なくとも自然人にとってネガティブな面が継続するだろう。
つまり、税・社会保険料の負担は増え、社会保障を含む公共サービスは低下するだろう。
また、預金封鎖・新円切り替え・財産税のような手法も、政府によるマイナンバー制度ごり押しを見るにつけ、可能性を排除できないのだと思う。
とりわけ預金封鎖の変化形は、最終的な金融政策正常化の段階までに(外貨買いの制限など)ある程度想定しておくべきだろう。

2012年の記事では、投資家に対する「インフレ税」のインプリケーションにも短く言及していた。
(この当たり前のことを理解していた人は、以降今まで大きく恩恵を受けたはずだ。)

この効果は資産クラスによって異なってくる。
債券・預金からの収奪が大きく、株式や不動産投資信託からの収奪は小さい。
・・・
結果、資産クラスごとに相当に不公平な税ということになる。

筆者が長らく(C)でなく(A)の方法を擁護してきたのは「不公平」という一点に尽きる。
これは、投資だけでなく、庶民の生活に対する影響の及ぼし方でも顕著だ。
制度変更による影響は、ある程度その波及の仕方を予想し調節しうるが、インフレの場合その調整がほとんどできない。
だから、コントロールしつつ国民から収奪する(A)の方がまだましと考えている。
しかし、最近の風潮を見ると、多くの人はそうは考えていないようだ。

これこそ社会の生来の特性であり、社会をある方向へ招き入れる引力だろう。
結果、アベノミクスや異次元緩和など想定もしていなかったのに、2012年2月の予想がざっくり言って当たっているように見えている。
繰り返しになるが、筆者の驚きを述べよう。
当たり前のことは(時間軸はどうあれ)当たり前のこととして実現していくんだな・・・




山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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