アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授が、インフレが投資に与える影響について過去のデータから分析している。
40歳未満で欧米に育った人たちにとってインフレとは抽象的概念にすぎない。
政府が発表し、専門家がコメントする数字にすぎない。
彼らの投資や日々の生活にとって中心的なものではない。
もっと年を取っている人、高インフレの国々で育った人にとって、インフレとは単なる数字ではなく、貯蓄に壊滅的な破壊をもたらし経済・社会の断層を暴露するものだ。
バリュエーション学部長が自身のブログで、インフレの話題を取り上げた。
インフレの経験・記憶のある教授は、インフレの動向を予見するのは不可能としながらも、油断すべきでないと説いている。
仮に高インフレが居座る場合、投資にどのような影響を及ぼすかを過去の数字で検証している。
興味深いのは、ダモダラン教授が、インフレの実績値を2つの要素に分けて議論している点だ。
実際のインフレ=予想されていたインフレ+予想外のインフレ
この2つの要素が、投資に対して異なる影響を及ぼすのだという。
投資家にとって「予想されていたインフレ」は投資の時点で投資家が把握できていたインフレ、事前に覚悟ができているインフレだ。
一方、予想外のインフレは投資後のサプライズとして起こり、経済や市場にとってある種のショックとして作用する。
ダモダラン教授は様々な資産クラスについて論じているが、ここでは米国株の部分を紹介しよう。
- 個々の企業にとってインフレがプラスかマイナスかはマチマチ。
- 恩恵: 売上増加率の上昇、利ザヤ拡大
- 弊害: リスクフリー金利上昇、リスクプレミアム拡大、デフォルト・スプレッド拡大、税負担増加
- 予想外のインフレは概して市場にとってマイナス。
これは、インフレに事業・財務構造を順応させ、期待をリセットするまで続く。 - 1930年以降10年ごとに見ると、高インフレの時にバリュー(低PBR)がグロースをアウトパフォーム。
ただし、統計的に有意な水準ではない。
1940年代、1970年代、1980年代。 - 小型株 対 大型株にはパターンは見られない。
- インフレとの関連が見られるセクターはエネルギーだけ。
ダモダラン教授は、インフレと種々の資産クラスとの相関についてもコメントしている。
- インフレ(実際、予想外)との相関が高いのは金と不動産。
予想外のインフレとの相関は、不動産より金の方が高い。
つまり、金の方がよいインフレ・ヘッジとなっていた。 - 負の相関が大きいのは米国債と社債。
これらは、インフレでマイナス影響を被る。
予想外のインフレの方がその影響が大きい。 - 株式とインフレ(実際、予想外)の相関は小さい。
実際のインフレとは無相関、予想外のインフレとは小さなマイナス。
統計分析の結果は確信を持てるほどの水準にはないとの印象だ。
(あれば裁定が働くだろうから、当たり前のこと。)
ダモダラン教授も申告しているとおり、割り引いて受け取った方がいいだろう。
そうだとしても、メッセージはたくさんあるはずだ。
- 債券は本当にゴミに近いものなのか?
- インフレに株が強いというのはどういう場合か?
こうした前向きな疑問を持つことは有用だろう。
ダモダラン教授は、インフレを一過性と思い込むべきでないという。
そして、今夏にも結論が出るかもしれないという。
「(インフレが)一過性か永続的かは不透明だ。・・・
経済学者や投資家は答を得るため占を続けるだろうが、この質問に答えられるのは時間だけだ。
経済が今夏強くなり、インフレが予想を上回り続けるなら、答が明らかになるはずだ。」
ダモダラン教授は、インフレがブレークアウトする可能性も無視できないと警告する。
もしもそうなれば、問題は投資家の皮算用だけにとどまらくなる。
低金利で借入を増やしていた企業のデフォルト・リスクが増大し、それが市場・経済に広く影響すると心配している。
インフレ(の可能性)をすぐ否定する人たちは、それが陰湿で陰に隠れる習性であることを忘れてはいけない。
コントロールされている間こそよく見えるが、そうでなくなると破壊的力を発揮する、ビンの中に閉じ込めておくべき魔物なのだ。
インフレを知っている世代の気持ちをよく表している。
先進各国は長い間インフレを希求してきたが、一たび実現すると、とても不快なことなのだ。
だからこそ、杞憂に終わることを願いつつ、インフレ昂進のリスクを唱え続ける人が少なくないのだろう。