アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授が、インフレと市場の関係を整理し、インフレ、ディスインフレごとの投資戦略を解説している。
インフレと金利は相互に関連しており、時々見られるように乖離が生じると、常に乖離の解消がやってくる。
金利を議論する時に中央銀行の政策を重視するようになっているが、私の考えは今も、市場が金利を決めるというもので、中央銀行は市場期待にナッジを与えることはできても変えることはできないというものだ。
ダモダラン教授が自身のブログで《市場の価格は市場が決める》との信念を語っている。
教授はこうした市場の持ついわば《見えざる手》を信じているようだ。
短期的な乖離を認めた上で、長期的にはこうした市場の作用を信じる人は少なくないだろう。
このブログ記事では、インフレと様々な資産クラスについての分析に基づく知見が述べられている。
重要なポイントは、インフレの系統的な影響を論じる場合には、単にインフレの実績やインフレ予想を変数としない点だ。
市場は何らかのインフレを目にしたり予想したりすると、それを市場価格に織り込む性質がある。
だから、重要な変数とは、インフレ予想に対して実績がどうなったかにあるのだという。
以下、興味深いところを紹介しよう。
ファクター効果
前世紀の大部分において、インフレが期待より大きく上回る時、小型株は大型株より良い結果を上げた。・・・
同様に、低PBR株の高PBR株に対するリターンの差で計算されるバリュー効果はインフレが予想より大きかった期間に大きくなり、インフレが予想より低い期間には小さくなる。
ダモダラン教授は、過去20年、小型株プレミアムが消滅していた理由が、インフレ動向と関連していると推測している。
いずれにせよ、この記述のメッセージは、予想外のインフレには小型株とバリューがいいということだろう。
実物資産
ダモダラン教授は、予想外のインフレの場合、金と不動産のパフォーマンスが良くなるとした上で、大きな相違点も指摘する。
不動産はより中立的なヘッジとして機能し、そのリターンは多くの場合、予想外の高インフレで打撃を受けない。
しかし、金はインフレへの賭けであり、インフレが予想よりとても大きい時に最大のリターンを上げ、予想を下回る時にマイナスのリターンとなる。
この差(もちろん日本の不動産も含め)を理解することは、インフレ・ヘッジを正しく選択する助けになるだろう。
インフレ格差と為替
高インフレの通貨は、低インフレの通貨との比較で、長い間に通貨の下落が予想されうる。
金利と同様、短期的には中央銀行のモメンタムや投機に対する介入によりインフレによるシナリオから逸脱することもあるが、長期的にはこのサイクルを壊すのはほぼ不可能だ。
教科書どおりの解説だが、ここで立ち止まる日本人も少なくないだろう。
日本は長期で見て低インフレだが、長期で見て円安だ。
これが中央銀行によるものなら、いつか「乖離の解消」が起こるのだろうか。
この問いにはいくつかポイントがあろう。
- 歪みは他のところに蓄積しているかもしれない。
- 為替レートが調整するのでなく、インフレや他の変数が調整するかもしれない。
- 単なるディスインフレでなく予想外のディスインフレの視点で検討しないといけない。
インフレと投資リターン
米国と比べてインフレが低下すると信じられている国々では、それらの通貨に対してドルが弱まり、それら国々の(株式・債券)市場のリターンは高まる。
米国と比べインフレが上昇すると予想されている国々では、それらの通貨に対してドルは強まり、それら国々の市場のリターンは減ってしまう。
投資リターンは通常、現地通貨建てで計算されるが、それでは正しい姿が見えないということだろう。
高インフレ国で株式が現地通貨建てで高リターンだからといって、すぐさま喜んでいいわけではない。
ちゃんとインフレや為替の効果も見るべきだ。
ダモダラン教授の投資推奨
ダモダラン教授は、インフレについて2つの見方の存在を認め、それぞれの見方に分けて投資推奨を書いている。
もしも、昨年のインフレ急騰をインフレが高止まりし予想を超える長い期間の前触れと信じるなら、保有を金融資産から実物資産に移し、株式保有は小型株、低倍率(PER、PBR)銘柄、価格支配力のある企業に移すべきだ。
逆に、インフレ懸念は行き過ぎで過去10年のような低インフレに戻ると信じるなら、株式、特に大型株や高成長株への投資を継続するのが、たとえ高値でも、理に適っている。
質の高いバリュー株という流行りは、この2つの排他的シナリオの重なり部分になっているようにも読める。
また、片方のシナリオに賭けるのが得策でないと思うなら、両方に分散投資すべきだろう。