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ハワード・マークス ハイリターンならハイリスクじゃないはず!?:ハワード・マークス

ここではもう少し脱線して、上記の右肩上がりのトレードオフ自体に異議を唱えてみよう。
(もっとも、これは筆者がビジネススクールで教わったことにすぎないから、ファイナンス理論にとっては脱線でさえない。)
以下用いる「リスク」とは上方にも下方にも分布するブレ、つまりファイナンス理論で用いるリスクである。


(投機、宝くじ、ギャンブル等も含めた)広義の市場を考えた時、多くの市場の間には何らかの壁があって裁定が働かないことも多い。
一言でいえば、市場はしばしば分断されている。
そうした分断された市場の中には右肩下がりのトレードオフを持つものも多い。
なぜ見かけないかといえば、あまりファイナンス理論が必要とされる場面でないからだ。
ファイナンス理論の議論の多くはリスク回避的参加者の市場を取り扱っているが、理論はそれに限られたものではない。

さて、右肩下がりのトレードオフとはどのようなものか。

宝くじやギャンブルのトレードオフ

右肩上がりのトレードオフとはずいぶん違うのに戸惑われるかもしれない。
そもそもリターンが全体にわたってマイナス圏にある。
これが宝くじやギャンブルの多くで見られるトレードオフであり、リスク選好的参加者の市場である。

宝くじやギャンブルでは胴元も食べていかなければいけないから、言葉は悪いがピンハネが行われ、参加者の期待リターンはマイナスになっていることがほとんどだ。
(例外は仲間内で行われる胴元によるピンハネのない違法賭博だが、これは違法なので手を染めてはいけません。)
リスク選好者は、期待リターンがマイナスであっても宝くじやギャンブルにお金を出す。
しかも、リスクが高まるにしたがい、より低い期待リターンを許容する傾向がある。
(リスク選好者にとってリスクがゼロの宝くじやギャンブルには意味がない。
おそらくリスクがゼロとなる点で、突然リスク回避者に変身して、プラスのリスクフリー金利を要求するようになるのだろう。
この変身こそが市場の分断を示している。)

余談の余談になるが、リスク中立の場合、トレードオフの線は水平の直線になる。
リスク中立の参加者が求めるリターンは、リスクの大小に寄らないのだ。
筆者はかねがね、ウォーレン・バフェット氏がこの類型に入るのではないかとの仮説を持っている。
バフェトロジーにおいて将来キャッシュフローに適用する割引率がリスクフリー金利とされているのがその根拠だ。
長期投資を前提とすることで、リスク要因を無視できるとの考えであろう。

筆者は常々、宝くじやギャンブルにのめりこむ人は、この右肩下がりのトレードオフを絵で見ておいた方がいいと考えている。
宝くじやギャンブルをほどほどに楽しむのには賛成だが、程度を越す、つまり右方向にどんどん進むことに(筆者には)幸福は感じられない。

一方、株式投資などリスク回避者も多い市場では話が大きく異なる。
右方向に進む意義、つまり期待リターンが上昇するという意義が存在する。
もちろん高いレバレッジをかけるのはどうかと思うが、ロングオンリーの株式投資といった程度なら、相当に積極的に行う意味は十分にあると思う。
(マークス氏に議論は、まさにこの《程度》の問題を言っているのだと思う。

ちなみに、一概に株式市場と言っても、そこには分断された市場セグメントがあり、中にはリスク選好者のセグメントもあるのだろうと思っている。
筆者はそういう存在には好意的だ。
こうした参加者が相場の肥やしになってくれる可能性があると考えているからだ。
リスク選好者が肥やしをまき、リスク回避者が収穫するなら、実に理にかなっている。
リスク選好者はスリルを楽しみ、リスク回避者は実利を取れるのだろうから。

ここでもう1つ述べたいのがビットコインなど暗号資産だ。
筆者はこれらが右肩下がりのトレードオフにあると疑っている。
でも、一番の問題は線の傾きではない。
問題は、これら市場にピンハネがあるかないかだ。
(発行市場ではピンハネはある。)
暗号資産の流通市場では胴元のピンハネはないように見えるが、手数料やスプレッドは大きく、さらにクジラがいる。
冷静に評価ができるようになった時、これらの期待リターンがマイナス圏にあったと確認される日が来るのではないか。
だから、この分野には手は出さない。
ただし、すべてを理解し、法やルールを守り、節度を持って楽しむのなら(他の合法な投機と同様)それを否定するものでもない。

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山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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