なんという不運。
オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、昨日9日付でトランプ関税を事実上批判するMemoを公表している。
トランプ大統領は何度も繰り返していた前言を撤回し、同日午後、一部関税を90日間停止すると表明した。
マークス氏はぎりぎりまで待ったのかもしれないが、結果的には貴重な教えを最悪のタイミングで提示することになってしまった。
マークス氏のMemoは、正統的な経済学をもとに関税の問題点・利点を論じたものだ。
それ自体の有用性が変わるわけではないが、結果的に現実の結論は90日後まで待つことになる。
4月9日は決着の日ではなく、始まりに日に戻った。
マークス氏は最近のBloomberg出演と同様、今回も米国が有するゴールドカード(基軸通貨の発行権)について触れ、それを失うことになるのではないかと自問している。
- 他国の米国債への買い意欲が減少するのでは? 彼らは米国の財政管理には信頼がおけないと結論づけないか?
- 米国が世界最強の信用力を維持する場合でも、心配、敵意または政治的目的のために(米国債)購入を減らすのではないか?
- 米国債入札が不調に終わったら何が起こるのか? (FRBが買い入れるのだろうが、そのための資金を市中銀行の(準備)預金を増やすことで賄うのには違和感がある。結局その資金はどこから来るのか?)
- ドルが世界の準備通貨として受け入れられなくなっていくとしたら、米国は世界最強の信用力を維持できるか?
- 米国債の買い手がより高い金利を要求するようになったら、財政赤字、そして国の債務はどうなるのか? これまでは、貿易赤字の一部がおそらく米国債購入に返ってきていた。それが終われば米国債利回りはどうなるのか?
昨日午前までの米国のやり方は、敵味方関係なく、十分な交渉の時間も与えないままに、他国に一方的な負担を押し付けるものだった。
しかも、その関税率には理屈もなく理不尽に高く、事実上の禁輸に近い影響を及ぼしかねなかった。
上記のマークス氏の自問は、トランプ関税が貿易赤字の反対側にある米国の資金調達に悪影響を及ぼし、米国が握ってきた、いわゆる《途方もない特権》が消滅しかねないとの懸念を示したものだ。
昨晩(米国の9日)、ドルと米国債が大きく売られる局面があった。
(これが米政府に強い警告を与えたのだろう。)
市場は概ねマークス氏や正統的経済学の側にいるのだろう。
(次ページ: マークス氏は「世界の終わり」にどう対処したか?)