ビル・グロス氏が、経済・市場の先行きについて想像力を掻き立てるツイートをしている。
同氏がInvestment Outlookで寓話的な話を用いることが多いことを考えると、誰しも深読みしたくなるのではないか。
2025年はどうなる? 『氷(ice)か炎(fire)か?』
米市場について炎で終わるという人が多く、そうなるのかもしれない。しかし、中国の氷に注意すべきだ。
中国のデフレはあまり素敵なものではない。
グロス氏が3日ツイートした。
文意から見て、米国の炎とは経済・市場の過熱とインフレ、中国の氷とは停滞とデフレだろう。
これは表面だけを見た、スクエアな読み方だ。
しかし、本当にグロス氏の思いはこれだけだろうか。
同氏が気づいているか否かにかかわらず、もう少し深い思いがあるのではないか。
そもそも『ice or fire』とは一般的な言い方なのか。
まず疑問が湧くのは、「終わる」(end)が単に《決着する》と意味なのか、もう少し先のある話なのかだ。
ここを深読みすると、米国はバブルと崩壊、中国はデフレと《失われたX十年》が心配されてくる。
『ice or fire』はどこから来たのか。
ピューリッツァー賞を4度受賞した米国の詩人Robert Frost(1874-1963年)の短い詩『Fire and Ice』をモチーフにしているのだろう。
Some say the world will end in fire,
Some say in ice.
From what I’ve tasted of desire
I hold with those who favor fire.
But if it had to perish twice,
I think I know enough of hate
To say that for destruction ice
Is also great
And would suffice.
各行ごとにざっくり訳すとこんな感じだ:
「ある人は世界が炎で終わると言い
ある人は氷で終わると言う。
私が味わった欲望から考えると
炎を好む人たちに賛成したい。
しかし、世界が2度滅亡しなければいけないとしたら
私は憎悪についてよく知っており
破壊のために、氷
もまた強力であり
十分なものだと言える。」
炎=欲望、氷=憎悪 であると解されているようだ。
フロストは明示的に「滅亡」と書いており、「終わる」には強い意味が込められていることがわかる。
グロス氏は当然この詩を知っているだろうし、
炎=欲望=過熱、インフレ、バブル的なものの崩壊
氷=憎悪=停滞、デフレ、失われたX十年
という連想が働いたと考えるのも深読みではないかもしれない。
ここからは少々過度な深読みだ。
グロス氏がフロストに触発されたとすれば、フロストは何に触発されて『Fire and Ice』を書いたのか。
フロストは最多タイの4回ピュリッツァー賞を受賞している。
詩部門での受賞だが、フロストは社会的テーマ、哲学的テーマを好んだ詩人であった。
フロストの真意についてのヒントは『Fire and Ice』の時代背景にある。
この詩が収められた詩集は1923年に出版されている。
第1次大戦終結から5年後、第2次大戦の火種が少しづつ積もり始めた頃かもしれない。
米国について言えば、モンロー主義が提唱された頃である。
この時代背景を考慮すると、こんな深読みもできよう:
fire=戦火
ice=不干渉や(時代は違うが)冷戦
今の文脈でいえば、米欧と中露の間の選択肢が頭に浮かぶ。
今回のツイートとは別の話として、グロス氏ほどの文学好きがこの背景を知らなかったとは考えにくい。
問題は、今回のツイートがこの背景までイメージしたものか否かだろう。
さすがにこの深読み解釈は深読みが行き過ぎているのだろう。
しかし、そういう不安を感じさせるほど、昨今の世界情勢が混沌としているのもまた事実だ。
炎が戦火ではなく《炎の友情》であることを祈りたい。