アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授のTop Traders Unpluggedインタビュー続編: 株式リスクプレミアムとマーケット・タイミング。
米国株の株式リスクプレミアム
ダモダラン教授は、S&P 500指数と期待されるキャッシュフローのIRR計算によって、毎月同指数の株式リスクプレミアム(ERP)を公表している。
(FPではしばしば教授による国別ERPを用いた比較を公表してきたが、S&P 500のERPは国別ERPの基準値として用いられている。)
IRR計算による期待リターンとリスクフリー金利の差からERPを求めているため「現実に根差した、完全にモデル非依存で、CAPMと裁定取引も仮定せず、理論を含んでいない」やり方だという。
要は、あてにならない理論を援用して計算をはしょっていない、といいたいのだ。
「2023年7月初め、この数字は4.11%と2008年(リーマン)危機前からで最小となった。」
(訳注: 教授の元データを見る限り、時点は今年7月初め、数字は4.12%のことと思われる。ちなみに今月初も4.12%と最低値が続いている。)
ダモダラン教授は、現在がリーマン危機直前以降で米ERPが最も低位にあるとし、その含意を解説する。
「あなたがマーケット・タイマーなら、これはマーケット・タイミング上こうなる:
『4.11%は過少か』との問いの答が『過少だ』なら、株式は割高で、持ち株を減らすか、大胆に株を空売りするかとなる。
(空売りなら)正しいことを祈った方がいい。」
「ERPが過小」とは、投資家が株式のリスクを取る際に、リスクテイクの代償を十分に得ていないことを指す。
つまり、市場がリスクに過度に寛容になっているのだ。
ただし、現状の4.11%が「過小」であるかは議論があろう。
ダモダラン教授も「最小」とは言っても「過小」とは言っていない。
聴衆に考えさせるために、わざわざ自問させている。
ダモダラン教授は、ERPを重視する理由を語っている。
PERはなまくら刀のようなものだ。
金利水準、成長率、キャッシュフローを勘案していない。
だから私はPERでなくERPを使っている。
一方、PERやCAPEについては、あまりにも荒く、粗い指標が割高を示す間、買い時を取り逃がす可能性を心配している。
国別のPER比較の落とし穴
外国株、特に新興国市場株式が割安との話題を振られて
「もしもアフリカ株が安いというなら、低PERを理由に安いと言うべきではない。
どこかアフリカ企業、ダンゴートセメント株を評価し、欧州やアジアのセメント企業より安いと証明してくれ。
キャッシュフローを検証・予想し、そのキャッシュフローのリスクやコーポレートガバナンス欠如の現実を検証してくれれば耳を貸すよ。」
ダモダラン教授からすれば、PERのなまくらぶりは銘柄間だけにとどまらず国別にも当てはまる。
「PERで価値を測るなら、東欧やロシアの株を積み上げなければならなくなる。
PERは低いが、理由があってそうなっている。」
国別、銘柄別、セクター別に限らず、PERの高低にはそれなりの理由があるのだろう。
その議論なくPERを使うのが危険というのは、古いバリュー投資の陳腐化と共通する問題点だ。
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