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中国が関税を負担するならアメリカ人は中国製品購入をやめない:ローレンス・サマーズ

ローレンス・サマーズ元財務長官が、米政権による関税の擁護について、端的に的確に論破している。


スコット・ベッセント財務長官は、新たな関税のコストを負担するのは中国製造業だと主張し続けている。
この主張は、私が知る限りのあらゆる入門レベルの経済学の教科書・コースと相反している。
このばかげて見える主張の論拠・根拠は何なのか?

サマーズ氏の先週ツイートした。

米政権は関税を負担するのは輸出者だと主張し、関税収入が財政再建の助けになると説明している。
しかし、言うまでもなく、関税の負担者は法律上も輸入者だ。
ただし、経済的にどちらが実質的に負担するのかは、考えようの問題とする向きもあるだろう。

もちろんサマーズ氏に抜かりはない。
きちんと証拠を用意した上で自身の(財務長官としての)後輩を酷評している。

ベッセントの理論は、大統領就任日以降の2か月で米鉄鋼価格が1/3上昇し、新車価格が数百ドル上昇していることと矛盾している。

もちろん中国側も価格・量の面で負担がないわけではない。
しかし、上記グラフ等を見る限り、かなりの部分を米市民が負担するのは間違いない。

老練なサマーズ氏は、政権による偽りのレトリックに潜むパラドックスを2つ指摘している。

仮にベッセント理論が正しいなら、消費者が中国製造業から切り替えるインセンティブはほとんどない。

仮に関税を負担するのが輸出者で、輸入者・買い手に負担がないならば、買い手は輸入を続けるだけ。
貿易の不均衡を是正したり、国内製造業を支援したりはしないことになる。

もう1つ留意すべきは、中国企業による米国での新規投資の短期的影響は貿易赤字の増加である。

中国に限らず、日本も諸外国も米政権に擦り寄るように米国内投資の意向を表明している。
もちろん、米産業にその設備投資需要をすべて満たす供給能力はないし、供給能力を拡大するには長い時間がかかるだろう。
それまで、米国は輸入を増やすことになる。
需給のたるみのない、供給制約のある経済での当然の結果だ。

もちろん米政府もこれほど基本的なことを理解していないわけではあるまい。
関税は交渉の手段にすぎないのだろうし、関税の範囲が相互関税に留まるならむしろ伝統的考え方に適っていると言える。
しかし、強烈なブラフをかけて、それでも相手が折れなければ、問題は深まる。
その時、米国は振りかざした刀をおめおめと鞘に戻すことはできまい。
そうすれば、二度とブラフが使えなくなってしまう。
実際に関税をかけることになれば、米市民は輸入品に数十%の間接税を払い続けることになり、その帰結は明らかだろう。
市場はそれを恐れているのだ。


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