レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から「第6章 中央銀行へ波及する危機」を紹介。
「第4章 典型的な順序」で説明された9つのステージを復習しよう:
- 民間・政府部門が債務過多に
- 民間部門の救済のため政府債務がさらに増える
- 政府部門で債務スクイーズ(国債への需要不足)
- 債務スクイーズで起こること。通貨安
- 国債発行とマネタイゼーション
- 「中央銀行の破綻」
- 債務リストラ
- (債務リストラ時の課税や資本規制
- 債務が均衡を回復
第5章ではステージ4(債務スクイーズで起こること。通貨安)が説明されていた。
第6章ではステージ5と6が説明されている。
ステージ5の(国債発行とマネタイゼーション)とは、政府がさらに国債を発行し、それを中央銀行が買い入れる話だ。
目的こそ違えど(?)大規模な量的緩和は外形的にはこれと同じ営みだろう。
以下は、ステージ6(ダリオ氏が「中央銀行の破綻」と呼ぶ段階)について注目点を紹介しよう。
大規模な量的緩和を行うと、中央銀行のバランスシートはパンパンに膨れ上がる。
借金(市中銀行から預かる準備預金)が積み上がり、資産(買い入れた国債等)が積み上がる。
問題は金利上昇のスピードだ。
このストーリーではすでに債務スクイーズが起こったことが前提になっている。
つまり、金利は急上昇しており、これは速やかに中央銀行の支払金利(準備預金への付利)を増大させる。
一方、保有する資産(国債等)は固定金利のものが多く、金利上昇の恩恵を受けない。
金利が急騰する場合、中央銀行は大きな逆ザヤに陥り、結果、債務超過に陥るのである。
(会計上は債務超過でないと強弁する人もいるのかもしれないが、時価ベースでは案外簡単に債務超過になりうる。)
ダリオ氏はこの債務超過について次のように書いている:
「これは最初の中程度の赤信号だ。
いくつかの中央銀行では現在純資産がマイナス(あるいはそれと同等)になっているが、それは運営上さしたる問題とはならない。
しかし、損失の度合いが大きくなると、より大きな問題を引き起こすスパイラルが始まりかねない。」
特に債務が自国通貨建ての時、中央銀行はいくらでも貨幣を増発し支払いに充てることができる。
だから、中央銀行が債務超過になっても、業務に支障をきたすことはないという、いつもの話である。
ちなみにダリオ氏は「損失の度合いが大きくなる」状況を「サイクル中期の信号」と見ているという。
「死のスパイラル」(金利上昇、債務超過拡大、貨幣増発、貨幣減価、国債売り、金利上昇、・・・)となればさらに大きな通貨安圧力となるのは言うまでもない。
言い換えると、自国通貨建て債務を発行する国では、債務過多により名目の国債価格が低下しなくても、実質の国債価格あるいは国債の経済的価値(例えば購買力)は低下していくということだ。
これに似た現象を、日本はすでに異次元緩和開始直後やこの数年で経験したとも言えるのかもしれない。
(ただし、まだスパイラルには陥っていない。)
ステージ6が言及するスパイラルは言うなれば最悪の状況だ。
これを食い止め、長期サイクルを終了させ、新たなサイクルにつなげるのがステージ7(債務リストラ)になる。
ダリオ氏は「典型的な長期サイクルの終わり」に見られる事象をいくつか挙げている:
- 債務リストラ
- 痛みをともなう財政再建
- 外貨準備の回復
- 投資家誘引のための高い実質金利
- 貨幣価値安定のための中央銀行ルール
ここに挙げたいずれの項目も現在の日本では受け入れられそうにないように思われるのが興味深い。