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アスワス・ダモダラン 反グローバル化が投資に及ぼす影響:アスワス・ダモダラン

テスラ株は、上場以前から一貫してファンダメンタリストたちから株価の割高を主張されてきた。
期待先行のグロース株の典型であり、バリュー投資家の検討する対象とはならない銘柄だった。


ダモダラン教授とテスラ株の付き合いは長い。
《バリュエーション学長》の異名をとる教授は、グロース株でも丁寧にDCFで結論を出す。
当然ながら長年にわたり結論は割高だった。
それが2019年6月についに買いのチャンスが来た。
ダモダラン教授はテスラ株に投資し、2020年1月に売却するまでに3倍超に上昇した。
(ただし、その後同株はテンバガーを達成している。
こういう株からのリターンを理屈ですべて収穫し尽くすのはやはり難しい。)

ダモダラン教授は、日頃から注目する銘柄を長期にわたって見続けるよう説いており、もちろん自身も実践している。
テスラ株への注目は継続され、2024年1月、評価額が182ドルになったところで再評価を行い、170ドルで再び買いを入れている。
しかし、その後テスラの将来に影響を与える3つの変化があったという:

  • 「EV化は不可避」の再考: EV市場の将来性自体が下方修正された。
  • 中国BYDの台頭: 2024年に販売台数でテスラを抜いた。
  • テスラの政治化: イーロン・マスク氏の政治活動が悪影響を与えている。

(いずれも政治と密接に関係しており、2つ目・3つ目は反グローバル化とも関連しているのだろう。)
ダモダラン教授は、EV業界がプレミアム市場と低価格市場に二分されると展望する:

  • テスラ: 主たるプレーヤーであり続けるが、圧倒的シェアを得る確率は低下。プレミアム市場で優位。
  • BYD: 低価格市場、特にアジアで主役に。
  • 従来の自動車メーカー: EV市場でこれら2社に勝てるか懐疑的。

ダモダラン教授はテスラについての悪材料を織り込んで株価評価をやり直している。
結果は、市場株価220ドルに対し評価額148ドルとなっている。
これは2024年の評価額182ドル、買値170ドルよりもかなり低い。

一方、BYDについては、これまでダモダラン教授は北京リスクを大きく見て後ろ向きだった。
しかし、テスラの方も政治化してしまった今「BYDへの投資への扉を開くべき時が来たかもしれない」と書いている。
もっとも、多くの投資家にとって(特に政治的なリスクのある)テスラやBYDへの投資は敷居が高いかもしれない。
そういう投資家にとっては、テスラ株の例は遠い話に聞こえるだろう。

教授は、政治や反グローバル化が投資全般に及ぼす影響を次のように書いている。

投資家は、過去20年間市場を牽引してきた大手テック企業から、より国内志向の比較的時価総額の小さな企業へ回帰することが必要とされよう。
さらに、政治やマクロ経済上の要因が企業評価に大きく影響し、それら企業への投資リターンに対するより大きなワイルドカードになるという現実を受け入れる必要がある。


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