かつてエンロンの不正会計を暴き、ショートセラーとして一躍有名になったジム・チャノス氏が、サイクルと不正の関係を語っている。
同氏は昨年11月それまで率いてきたキニコス・アソシエイツを閉鎖し、ファミリー・オフィスに転換している。
インタビュアー:
「あなたが引退するのは、もう詐欺がなくなったからか?」
チャノス:
「そういうコメント/質問を受けるのは初めてじゃない。
サーベンス・オクスリー法案が議会を通過した時、ウォールストリートジャーナルの記者から電話をもらったんだ。」
チャノス氏がCapitalisn’tのインタビューで、エンロン・ショック後の打ち明け話をしている。
エンロンは2000-01年頃、全米でも大手のエネルギー企業だったが、チャノス氏らに不正会計を指摘され2001年末に破綻した。
これがいわゆるエンロン・ショックだ。
エンロンやワールドコム等の不正会計問題への反省から、米国では2002年サーベンス・オクスリー法が制定された。
企業会計の記録と報告について一定の手続きを義務付け、会計と内部統制を厳格化したものだ。
チャノス氏は当時のWSJ記者との会話を紹介している。
記者:
「残りの人生をどうするの?」
チャノス:
「どういう意味?」
記者:
「(サーベンス・オクスリー法で)詐欺が違法行為になったんだ。」
チャノス:
「まだ忙しいままかもしれないよ。
わからないけど。」
記者が話した「詐欺が違法行為になった」とは、何とも愉快な指摘だ。
もちろんサーベンス・オクスリー法以前から詐欺は違法だ。
実際、エンロンやワールドコムで不正を行った幹部は懲役刑を受けている。
法があれば不正が行われないわけではない。
チャノス氏は同法以降もいくつも企業不正をテーマに空売りを続けてきた。
外部資金を預かるヘッジファンドを引退した今も、メディアから声がかかる。
いくつかの大学で金融詐欺の講義を持っているチャノス氏は、企業による不正の傾向について語る。
(経済・市場)サイクルが長く続けば続くほど、価格の観点でばかげたものになるだけでなく、企業の違法行為はよりひどくなり、それが受け入れられてしまう。
チャノス氏は、上昇サイクルが価格や不正を醸成し、ついに人々の警戒心さえ拭い去ってしまうと考えているのだ。
リーマン危機後では、2021年にこうした土壌がピークとなったという。
そして今、これが再燃しそうだという。
「2023年終わりと2024年はまた勢いづいているようだ。
先週あたりからドナルド・トランプのSPACが300%上昇している。」
昨年終わりFRBが利上げの終了を匂わせる発言をしてから、リスク市場は再び上昇トレンドを続けている。
チャノス氏が言及したSPACはDigital World Acquisition Corp(DWACU)。
先月、トランプ氏のSNS「Truth Social」の親会社Trump Media & Technology Groupと合併すると発表している。
チャノス氏が言及したのは不正うんぬんではなく、ある種の熱狂のことだろう。
そして、熱狂のあるところ、脇の甘い人が増えていく。
チャノス氏は、世間の現実として、不正・誇大な会社・事業に長く人が集まることがあり、それに周期性があると話した。
景気拡大・強気相場が長く続くほど、それら終期に多くの投機が行われることになる。
長くなるほど、人々の不信感や懐疑心は削がれていく。
伝統的な価値の尺度は重要でないと考え始める。
その尺度のせいで、隣の人は儲けたのに自分は儲けられなかった、と。
サイクル終期では、真実にしてはよすぎることを信じるようになる。