レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から「第2章 力学の言葉と概念」を紹介しよう。
前章では、お金の出し手と取り手の双方が満足する条件で折り合わないと均衡が得られないとの考えを紹介した。
ダリオ氏は第2章でその具体例を紹介している。
「ある国(例えば日本)において国債金利(中央銀行が通貨発行すれば返済できるために広くデフォルト・フリーと考えられている)が他国より年X%低かったとする。」
今や日本で起こっていることは、ダリオ理論の応用例あるいは証拠として絶好のケースになっているのだ。
(以下、「A国」と「B国」を日本と米国に置き換えて意訳する。
日米で見るなら、現在のX%は短期で4%、長期で3.5%程度になる。
最近実際に金利や為替が動いた直前・最中、金利差は5%だったので、ダリオ氏は金利差5%で説明している。)
ダリオ氏は、こうした場合に起こること、つまり金利パリティの考え方を説明している。
- ドルがより大きな金利を稼ぐ分、円がドルに対して高くならなければ均衡しない。
つまり均衡状態では「金利差は、高金利の通貨(ドル)が低金利の通貨(円)と比べて減価することで相殺される。」 - しかし、この均衡が成り立っていない場合、裁定が働き、均衡するまで円が売られ、ドルが買われ、米国債(例として長期債)が買われる。
結果、為替と金利は相対的に次のように変化する:
「A) スポットで40%の円安
または
B) 日本の10年債金利が相対的に5%ポイント上昇し、価格が40%低下」
(もちろん、両方の合わせ技になるのがより自然だろう。)
まさに今私たちが見ている現象であり、これは金利と為替の基礎中の基礎といえる現象なのだ。
世間ではリフレをやろうが国債増発をやろうが日本国債は減価しないと主張する人がいる。
確かに名目価格は減価しないかもしれないが、その場合は代理として円が減価する。
40%の下落を暴落と呼ぶならば、日本国債はすでに暴落したとも言えるのだろう。
さらに興味深いのは、ダリオ氏がこの例を語る際に1つの重要なポイントを付言している点だ。
それは資本規制への言及である。
「こうした調整が起こらない場合(たとえば資本規制のようなものがある場合)金利が3%低く通貨が年2%下落するなら、(日本の10年債保有者の)米国債保有との比較での損失は年5%となり、10年で40%になる。」
資本規制の話は異次元緩和の最中、日銀で調査統計局長を務めた早川英男氏が言及していた。
異次元緩和の出口ではキャピタルフライトを防ぐためにある種の資本規制が必要になりうるとの予想だった。
実際に資本規制が敷かれるかは今後の展開によるだろうが、こうした可能性もまた、至極理屈に適った考えだったのだ。
ただし、ダリオ氏の解説が示唆するのは、資本規制が日本国債の投資家(拡大解釈すれば円の保有者)の実質ベースの損失を回避するものとはならず、時間的に拡散させるにすぎないということだろう。
こうしたよくない結末も含め、特に債務サイクルを推し進める要因をダリオ氏は抽出しようと努力してきた。
18のドライバーを見出し、特に「5つの力」を重視してきた。
草稿では、大国の衰退のドライバーとして大きな2つの指標を挙げている。
「強国とその通貨の凋落が大きく進展していく様は
1) 信用と経済の成長率を高めるための信用・債務拡大政策を抑制するために用いられるタイプの貨幣制度が継続的に弱体化するのにともない、どんどん債務が増えること
2) 他の強国と比べた、健康の指標、教育の質、インフラ、法と秩序、礼節、政府の効率など
を見ればわかる。」
ダリオ氏はかねてより独自に定量化した「強国インデックス」を計算し公表している。