海外経済 投資 政治

景気サイクルが政治化される:ヌリエル・ルービニ
2024年8月25日

ヌリエル・ルービニ ニューヨーク大学教授は、インフレ急騰に対処するためにFRBが利上げに取り組んでいた時期、米財務省が疑似 量的緩和を行っていたと主張している。


米財務省は発行する米国債を短期化することで長期金利を押し下げ、FRBの政策金利1%ポイントの低下に相当する経済刺激をもたらしている。
さらに、財務省の最近の四半期借り換え方針におけるフォワードガイダンスからは、この裏口QEがFRBの努力を挫折させ、機能を妥協させることが読み取れる。

ルービニ教授らがProject Syndicateで、米財務省が国債発行の短期化を用いて疑似 量的緩和を行っていると批判した。
教授は7月にこの問題に関する連名の論文を公表している。
短期化により長期金利が0.25%押し下げられ、この緩和効果はFF金利に換算して1%ポイントに相当するというものだ。
イエレン財務長官はすぐさまそうした意図はないと反論している。

この論争は、やや陰謀論のフレーバーがあり、市場からも距離を置かれているようだ。
もっとも、財務省に意図があったかどうかの判断は少し難しい。
財務省が国債発行を無難に消化しようとするのは当然だし、そこで長めの金利を押し上げたくないと願うのも当然だ。
そうした中で短期化が行われたのなら《長期金利を押し下げ》たとの指摘も完全な的外れではないだろう。
ただし、財務省は意図だけでなく影響の程度についても大いに反論している。

ルービニ教授は、こうした短期化が従来は戦争や景気後退の時期に限られてきたと指摘し、それに逸脱するやり方を「アクティビスト的国債発行」(ATI)と呼んでいる。
FRBがインフレ退治のために急速に利上げをしていた中、財務省が1%ポイント分FRBの努力を相殺していたと批判する。
中立金利が上昇したとの声が多い中、利上げの効果を減殺したことで、インフレ低下が遅れ、強い経済が温存されてきたという。
教授は、ATIが常態化されることを危惧している。

(そうなれば)景気サイクルが政治に左右される世界に入ることになり、刺激策は世論調査と同期するようになってしまう。
こうした見通しは、中央銀行の独立への脅威と同じ理由で不穏なものだ。

財政刺激策も(疑似)金融刺激策も政府の手中に入れば、ただでさえ甘やかしの政策が常態化する中で心配は募るだろう。

ルービニ教授らは、ATIをやめる(つまり短期化を巻き戻す)場合の市場への影響を試算している。
定量的に正しいか否かは議論があるが、紹介しておこう。

「長期利回りを一時的(数年間)に0.5%上昇させるが、恒久的なベースでは0.3%上昇ぐらいに収まり、それにともないリスク資産のリプライシングが起こる。
経済を冷やす効果は、FRB政策金利を2%ポイント引き上げるのと同等だ。」

この話が真実なのか、どれだけ精緻なのか、陰謀論なのか、それはわからない。
(陰謀論ではないような気がする。)
しかし、これが示すのは、いったん長期金利押し下げや財政拡張が実施された場合、それを正常化するのが容易ではないということではないか。


-海外経済, 投資, 政治
-, ,

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 本サイトでは、オンライン書店などのアフィリエイト・リンクを含むページがあります。 その他利用規約をご覧ください。