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ウォール街 注目を引いた小さなアクティビスト・ショートセラーの解散

アクティビスト・ファンドとして知られるヒンデンブルグ・リサーチが7年余りの歴史に幕を下ろした。
メンバー11人、比較的短い活動期間だったが、印アダニ・グループ、スーパーマイクロコンピューター、ニコラ・モーターなどの空売りで聞いたことのある人も多いだろう。
創業者ネイサン・アンダーソン氏が15日付の声明で同社の閉鎖を表明し、各国の主要メディアが報じている。


ヒンデンブルグのスタイルはこうだ:

  • 対象企業の公開資料・内部資料・関係者の聞き取りなどから、当該企業の不正を暴くレポートを作成し、LP投資家に開示。
  • 同社やLP投資家が空売りポジション。
  • レポートを一般公開。
  • 株価下落後に空売りポジションを閉じる。

レポートの内容が誤りなら風説の流布や名誉棄損となりかねないだけに、よほどの自信と度胸が必要とされるやり方だ。
実際、同社の7年余りの歴史は、市場のみならず、法廷における論争の歴史だった。
声明では、当初3件の訴訟に合い、すぐに資金不足に陥ったと書いている。

そもそもアンダーソン氏がヒンデンブルグで目指した主目的は金銭ではなかったようだ。
同氏は胸を張る:

すばらしいことに、当初可能と考えていたより結果的に多くのインパクトを与えることができた。
私たちの仕事により、またはそれに関連して、億万長者やオリガルヒを含む100名近くの人間が民事または刑事で当局から訴えられた。
揺さぶる必要があると感じた帝国を揺るがしたのだ。

社名は、多くの人が想像するとおり飛行船ヒンデンブルグ号に由来する。
大西洋を横断し着陸時に爆発し燃え尽きた飛行船事故の映像を見たことのある人も多いだろう。
この事故が回避可能な人災だったと見て、社名に採用したという。

そもそも空売りとはそう簡単な営みではない。
正しい考えに基づいてショートしても、市場の方は必ずしも正しい考えにのっとって動くものでもないからだ。

ヒンデンブルグのレポートはその内容について相応の評価を受け、非難の対象となった企業の株価は急落することも多かった。
不正の糾弾により巨額の(見かけの)富が消滅したが、それに比べてヒンデンブルグが得た利益はほんのわずかだったとの見方も多い。

アンダーソン氏の経歴もフィナンシェといった感じではない。
同氏自身がこう回顧している:

「これを始めた時、私は自分の能力を疑っていた。
伝統的なファイナンスのバックグラウンドもなく、親類にこの分野の人もいなかった。
私は州立大学の出で、やり手セールスパーソンでもなかった。
どんな服を着ればいいかもわからなかったし、ゴルフもできない。
4時間の睡眠で働けるような超人でもない。
かつての仕事のほとんどで私はよき労働者だったが、ほとんど注目もされなかった。」

コネチカット大学で国際ビジネスの学位を取得後、イスラエルで救急車の運転手をやったり、米国でデータ供給会社に勤めたりしていたようだ。
素人に近い集団が、多くの主要メディアから注目される存在になった。
WSJはヒンデンブルグ閉鎖を伝える記事で、同社を「ウォール街の卓越したショートセラー」と称している。
Bloombergは「最も肝が据わったショートセラーとの評判」と伝えている。
アクティビストが嫌われやすい時代に前向きな扱いを受けるのには、レポートの質、批判に公共性があるなどの理由があるのだろう。

アンダーソン氏は閉鎖の理由について、何らかの脅威・健康・個人的問題ではないと書いている。
かわりに「成功したキャリアが利己的行動になる時が来る」と書いている。

「以前、私は自分自身を納得させる何かが必要だと考えていた。
今ついに人生で初めて自分を納得させることを見出した。」

意義のあることをやり切ったとの思いだろうか。
アンダーソン氏は、家族への感謝を述べ、家族や友人と過ごす時間が増えるのを楽しみにしていると書いている。
身を引くにあたり、今後6か月ほどかけヒンデンブルグが蓄積したノウハウを公表するつもりだという。

これらが主観的な理由なのだろう。
一方、金融メディアは彼らの視線で客観的な理由を求めている。
CNBCは、当局のアクティビストへのマークが厳しくなっていること、ミーム株ブームのような現象が空売りをよりリスキーにしていると分析している。

FTは、一昨年ファンドを閉めたジム・チャノス氏や空売りをやめたビル・アックマン氏を引き合いにして、長く続いた強気相場でパッシブ運用が有利になり、空売りが難しくなったと分析した。
同紙は一概にアクティビストやショートセラーを敵視してはいないようだ:

「多くの試練にも関わらず、支持者らはショート・セラーが市場の熱狂を打ち消すために必要と考えている。」


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