海外経済 投資 政治

米ドルが憎まれる日は意外と近いかもしれない – 外国人の米資産投資に課税?

米大統領経済諮問会議委員長スティーブン・ミラン氏が保守系シンクタンク ハドソン研究所で行った講演が一部で話題になっている。


「米国の金融支配にはコストがともなう。
ドル需要が米国の借入コストを低く抑えてきたのは事実だが、それは同時に通貨市場を歪めてきた。
この過程で米国の企業・労働者は不当な負担を強いられ、世界における製品・労働力の競争力を削ぎ・・・」

ミラン氏の講演は被害妄想と敵意に満ちている。
同氏は、米国が2つの「世界の公共財」を提供してきたと話し始めた。
「安全保障の傘」と「ドルと米国債という準備資産」である。
そして、そのコストを諸外国は負担すべきというのだ。

過去30年、米国では基軸通貨を発行する《法外な特権》を自認し《強いドルは国益》との立場を続けてきた。
それを真っ向から否定する方向にトランプ政権は舵を切りつつあるように見える。
ミラン氏は、基軸通貨であるゆえのドル高要因が米国の競争力を低めていると主張する。
そして、ドルという共通通貨の恩恵を受ける諸外国が、負担を分担すべきという。

ミラン氏の講演は中国に対する敵意に満ちている。

  • 中国からの輸入は米国の安全保障を脅かす。
  • 中国の米資産保有が米経済を脆弱にし危機を引き起こす。

米中対立を考えれば、ここまではわからなくもない。
しかし、ミラン氏の敵意は度を越している。
リーマン危機を引き起こした米住宅バブルは中国と外国の金融機関によって引き起こされたとさえ主張しているのだ。

そして、最近の米国が大好きなカネの話になる。

「他国が米国の地政学的な、また金融の傘の恩恵を受けたいなら、自国の責任を果たし、公正な分担を負わなければならない。」

そして、分担についての5つの方法を提示している。

  • 米国の課す関税を受け入れる。
  • 不公正な通商慣行を撤廃し、米国からの輸入を増やす。
  • 軍事費を増やし、米国からの調達を増やす。
  • 米国に投資し、工場を構える。
  • 単純に、米財務省にお金を贈る。

ミラン氏については過去にも紹介した。
ヘッジファンド時代に、同盟国に対し、軍事協力の見返りに米100年債保有を求めるアイデアなどに言及したレポートを書いている人物だ。
あらゆる屁理屈を弄してでも他国からカネを搾り取ろうという策士である。

今回は、5つ目の手法が一部で注目を浴びているようだ。
これが、米100年債保有を求める(それによって負担を求める)という意味ならば、従来の主張の延長の話だろう。
しかし、SNSの一部では、米国債だけでなく他の米国の金融資産にも課税するとの解釈がされ騒ぎになっているようだ。

ちなみに今も外国人の対米投資には税金が課されている。
日本人投資家も米国株・米債券の配当・利金から米国で源泉徴収を受けている人がほとんどだろう。
いつものことだが、トランプ政権が具体的な方法を公表するまで真実は闇の中だ。
もっとも、関税についてあれだけ乱暴なやり方をするのだから、投資家が警戒するのも無理もない。

米国は危ういゲームを仕掛けている。
本当に諸外国の対米投資に課税強化するのなら、米ドルの天下が思いのほか早く訪れるのではないか。
米国にみかじめ料を収めるより、他の貿易黒字国の通貨・資産を利用した方がよいと考える国・人は少なくないだろう。


-海外経済, 投資, 政治
-,

執筆:

記事またはコラムは、筆者の個人的見解に基づくものです。記事またはコラムに書かれた情報は、商用目的ではありません。記事またはコラムは投資勧誘を行うためのものではなく、投資の意思決定のために使うのには適しません。記事またはコラムは参考情報を提供することを目的としており、財務・税務・法務等のアドバイスを行うものではありません。浜町SCIは一定の信頼性を維持するための合理的な範囲で努力していますが、完全なものではありません。 本文中に《》で囲んだ部分がありますが、これは引用ではなく強調のためのものです。 本サイトでは、オンライン書店などのアフィリエイト・リンクを含むページがあります。 その他利用規約をご覧ください。