ダリオ氏の危機感は相当に強い。
実際、私は、米政府の債務の状況が引き返せない地点に近づいていると判断している。
つまり、債務と債務返済の水準は、債務への投資家に大きな損失を与えることなく減らせる水準を超えている。
こうした水準では、米国債・米ドルを保有するリスクが明らかになり、債務返済のための借入れが必要となり、金利が上昇し、自己強化的な債務の『死のスパイラル』が発生するからだ。
大口の米「債務への投資家」と言えば、FRBと日本だ。
FRBが債務者の身内だと考えるなら、日本が最大の投資家であり「大きな損失」が及びうる相手となる。
(中国は米中対立をよいことに、持ち高を減らしている。)
ドル高のうちにドル資産を減らしておいてほしいと内心願うのは、橋本龍太郎だけではあるまい。
ダリオ氏は強い危機感に基づき、第16章で早急な対策を提案している。
「今でしょ!
反景気循環的にやれ!」
荒療治をやるなら景気のよいうちに、というわけだ。
ダリオ氏は自身の案を「3%、3面の解決策」と呼んでいる:
「
・財政赤字はGDPの3%(議会予算局予想はGDPの約6%)に削減すべきで
・削減は3つの財源(支出削減、増税、金利引き下げ。このうち金利引き下げが最も影響が大きい)で行いうる。
」
というもの。
ダリオ氏は、これをボトムアップ(項目ごとに検討して積み上げる)ではなく、トップダウン(まず数字を決めて、なんとしてもそれを満たす方法を探す)で実行すべきだという。
様々なケースの試算を通して「3%」という目標がMustの目標であると信じているのだろう。
ダリオ氏は3つの財源の中に財政ではなく金融政策を含めている。
そこには次のような理由がある:
「まず、政府の赤字に対し最大の影響力を有するのは皮肉にも、支出や税金を決める議会ではなく、金利を決めるFRBだ。
次に、財政赤字削減と利下げがともに債務問題を軽減するのに対し、経済成長・インフレ・税金には相殺し合う効果を及ぼす。
つまり、これら政策をうまくバランスさせれば、経済にとって許容不可能な効果を生み出すことなく大きく財政赤字を減らすことができる。」
「金融緩和をともなう財政引き締めが財政・経済にとって有効なのは、現在存在し是正すべき最大の不均衡が、中央政府の財政(危険なほど多くの債務と多すぎる借金)と民間部門の財務(特に市場・経済で好調な分野で比較的良い状態)の間の不均衡であるためだ。」
煎じ詰めれば、米国でも日本でもマクロで見れば民間がお金を持っていて、政府が借金漬けになっている。
これを立て直すには、民間から政府への富の移転が必要だ。
社会のシステムを維持することが目的ならば、どんなやり方でも民間から富をはく奪し、政府の借金を埋めるしかない。
民間(債権者)から政府(債務者)に富を移転する一法は、金利引き下げなのである。
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