主に米国でのストで、複数年で数十%の賃上げが求められ、企業がそれに応じる例が出てきている。
高インフレ(つまり前年比)が終わっても、高い物価水準は続いている。
高い物価水準を是正するには、大幅なデフレか、大幅な賃上げが必要だ。
米国の労働組合は、物価水準に追いつくための戦いを戦っている。
これと同様のことを考えられる日本の労組はほとんどない。
異次元緩和が始まった時、浜町SCI(FP運営元)では家計や資産の購買力が奪われる点を指摘し続けてきた。
なぜか。
当時、日本の民間企業の経営に関与していた者のほとんどは、インフレになったからといって賃金がそれに負けないですむなどとは考えていなかったはずだ。
むしろ多くの人が《政府は実質賃金を下げたいのだな》と受け取ったはずだ。
こういう空気とは、実際にその場にいないとわからない。
最初に紹介した浜田教授のコラムの冒頭にはこう書かれている。
「先月、コロナのパンデミック以来はじめて日本に帰った時、物価が大きく上昇していることに驚いた。
2020年2月、東京で簡素なランチは約1,000円、約10ドル相当だったが、今では2,000円ぐらいする。」
経済政策を論じる時、その社会の空気に触れ続けていないことは致命的だ。
数字だけではない、社会の実相を知った上で議論することが必要だ。
アベノミクスではさかんにポール・クルーグマン教授の意見が参照されたが、同教授が日本の実相をほとんど知らなかったのもまた事実。
クローバル・スタンダードを軽視するつもりはないが、国や地域の特殊要因も十分に加味する必要がある。
円安誘導が慢性化すると、それは国家挙げての慢性的な安売り政策となる。
安売りのためのコスト削減は、日本で投入される資源、主には不動産や人件費に転嫁される。
(名目価格・名目賃金に下方硬直性があるために、通貨安が利用される。)
リーマン危機後のリスク資産価格の長期上昇局面で、日本の不動産価格・人件費が大きく出遅れたのには理由があった。
なるべくして今がある。
問題は、これから挽回できるか、ということ。
しかし、これには財政の制約が大きい。
おそらく抜本的な改善は期待できないだろう。