オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が5月30日に顧客のみに送ったMemoを4か月半ほど経った今公表した。
最近のインタビューでも何度かこのMemoに触れていた。
今公表するということは、そこに込めたメッセージが今も生きていると考えているのだろう。
今回は本当に違うかもしれない
マークス氏が5月に顧客のみに送ったMemoの冒頭だ。
「This time it’s different.」(今回は違う)は投資の世界では有名な言葉だ。
この言葉は投資において最も不吉な4文字と言われる。
バブル等の大きな変化が起こると、必ず「今回は違う」といって正当化しようとする輩が多く現れるからだ。
ジョン・テンプルトンのこの言葉はマークス氏の持ちネタの1つだ。
世にはびこる軽薄な考えを戒めた後、落ちが来る。
「でもテンプルトンは20%では本当に違うと言っている」という落ちだ。
5月のメモでは、マークス氏はこの20%を主張しているのだ。
つまり、投資環境が根本的に変化したと主張している。
マークス氏は、過去数十年の金融界で最重要の出来事を「1980年から2020年にかけての2,000 bpの金利低下」と指摘する。
この(金利)低下が、おそらくこの期間における投資収益の大半の要因だ。
マークス氏は、2020年までの金利低下局面、多くの投資家が慢心に陥っていたと指摘する。
「資産保有やレバレッジを用いた投資戦略でこの時期利益を上げた投資家は、金利の資産価値や借入コストに及ぼすプラス効果を看過し、かわりに、おそらく多少は彼らのスキルや英知によるところもあっただろうが、戦略の本質的優秀性による利益と考えているかもしれない。
つまり、投資の基本的ルールに反している:『知能と強気相場を混同するな。』」
最近の状況を見る限り、金利の「より長くより低く」は期待できないとマークス氏は書いている。
これは市場金利だけでなく、政策金利についても言えることだ。
同氏は、緊急措置だったはずのゼロ金利政策が長く続き、市場の持つ資源の最適配分機能が阻害された結果、SVBやファースト・リパブリックバンクの破綻を招いたという。
超低金利のために、本来建設されるべきでなかったものが建設され、投資されるべきでなかったものに投資が行われ、取るべきでなかったリスクが取られたのだ。
マークス氏は、「この持続的低金利」を「繰り返してはならない誤り」と批判している。
低金利が続かないなら、世界は「ノーマル」に戻るという。
私たちの多くが忘れている、あるいは経験したことのない「ノーマル」とはなんだったか、マークス氏は列挙する。
- 経済成長は鈍化するかもしれない。
- 利益率は下がるかもしれない。
- デフォルト率が上がるかもしれない。
- 資産価格上昇は順調でないかもしれない。
- 借入コストは安定的低下トレンドとはならない(利上げでインフレが下がるなら少し下がるだろう)。
- 投資家心理は一様にプラスではないかもしれない。
- 企業の資金調達が容易でなくなるかもしれない。
超長期の金利低下局面とは、多くの人にとってとても心地よいものだった。
しかし、これからはそれがなくなり、巻き戻すと予想されている。
当然ながら、多くの人にとってこれまでより困難な時代になると予想されている。
一方、超低金利時代に割を食った投資家が「バーゲン・ハンター」だ。
当局が徹底的に救済した結果、パニックがなくなり、バーゲンも消滅したのだ。
逆張り投資家は投資のタイミングを見つけるのが難しかった。
マークス氏のようなディストレストの投資家もチャンスを見出しにくかった。
ところが、金利がいよいよ上昇を始めると、状況は大きく変化した。
投資不適格級のクレジットでリターンが向上し、魅力的になってきたという。
(次ページ: 2022年12月のショッキングな投資推奨)