オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏の対談の様子が同社サイトで公開されている。
対談相手は、同氏が度々引用・推薦してきた『確率思考 - 不確かな未来から利益を生みだす』の著者アニー・デューク氏。(リンクはアマゾンへのリンク)
マークス・ファンからすれば定番のテーマだが、それでもとても面白い会話になっている。
マークス氏発言から興味深い部分を紹介する。
60年前に読んだC. Jackson Graysonの著書について:
「私が受け取った最重要の教訓は・・・ある判断の結果からその判断の質を知ることはできないということ。
拙い判断が良い結果で終わることはしばしばある。
そしてみんな、特に投資業に携わる人が知っているのが『おお、彼は間違った根拠で正しい結果を出した』だ。」
凡人の世界では《運も実力のうち》という言葉があるが、甘すぎるようだ。
一発屋について:
「また、私がいつも言っているのは、この業界ではたった一度正しかっただけで有名になった人がたくさんいる。
一度正しかったからといって、その投資家の意思決定能力がどうかはわからない。」
これは世間のいたるところで見られる話。
真価を問うには時間がかかる。
成功の3つの原料:
「もう1つあまり言っていないことだが、成功の3つの原料とは積極性、タイミング、スキルだ。
もしあなたが適切なタイミングで十分な積極性を有するなら、スキルはあまり要らない。
でも、違いを認識しないといけない。」
スキルに欠けた凡庸で無謀なギャンブラーたちがマーケット・タイミングを試みる理由はここにありそうだ。
ギャンブラーの自画自賛:
「投資の格言に『強気相場と頭脳を混同するな』というのがある。
リスクの高いことをやって、うまくいくとする。
これが賢いのか愚かなのか、私にはわからない。
大金を稼げたなら多分賢いのだろう。
いや、うまくいったとはいえ、許容不可能な結果をもたらしうる大きなリスクをとったのだから多分愚かなのだろう。
そうした時に、他の多くの人と同様、人は自分を称賛する傾向があるのだ。」
言うまでもなく、投資家の過信は次の投資行動を誤らせる。
自著『市場サイクルを極める』に触れて:
「成功からは何も教訓を学ばないか、おそらく悪い教訓しか学ばない。
成功が教えるのは
『私はやれる。簡単だ。もっとお金を投じても、異なる分野でも、いつでも、チームがいなくてもできる。私の成功なんだ。』
これらはすべて悲惨な教訓だ。」
2012年末以降に投資を始めた人は、自分の成功を割り引いて考えた方がいいかもしれない。
厳しい局面を乗り越えないうちは証明にならない:
「重要な結論を下すには、検証しているものが試練を超えられるか見ないといけない。
バフェットが言ったのは『潮が引いた時にのみ誰が裸で泳いでいたかわかる』だ。
潮が引いていない時期を見ても、それは充足されない。」
日本の投資家の真価とは、リーマン危機や日本のバブル崩壊をどうしのげたかで決まるのかもしれない。
その意味で、ほとんどの投資家は失敗者かひよっこなのだろう。
もう1つの歴史も考慮しろ:
「私は、合理的におそらく起こりえたが起こらなかったことを『もう1つの歴史』と呼んでいる。
判断の質を評価する前に自問しなければいけない:
『結果じゃないんだ。判断の時点でどれだけの可能性、どれだけの確率だったんだ?』
そうした環境で、意思決定者は良い決定を下したのか?
・・・1つの結果からではわからない。」
今、結果が出たとして、判断の時点で起こりえたいくつかの「歴史」とその確率に遡らなければ、判断の質を検証できない。
(事前に周到な準備をしないかぎり)これはとても難しい仕事。
予想を行うときにすべき2つの作業:
「将来起こることを予想しようとする時に、ほとんどの人はすべての時間を予想のために費やすが、それでは十分ではない。
2つのことが必要だ。
予想、そしてあなたの予想が正しい確率を見極めることだ。」
予想とはシナリオ別に確率を見積もることで意味をなす。
マーク・トウェインを引いて:
「『あなたを困難に陥れるのはあなたが知らないことではない。
あなたが確実と考えたがそうでなかったものだ。』」
自分が予想したシナリオ以外にもシナリオを検討したか?
天気予報は当たったのか:
「間違いと言い切れる予想とは、確率0%と確率100%だけだ。
気象予報士が『明日の降雨確率は80%です』といって、雨が降った。
彼の予報は当たったのかといえば、そうではなく、雨が降っただけだ。」
当たったのかどうかを判断するには、同様の状況を数多く集め80%が妥当だったか確かめるしかない。
1回の事象で当たり外れを議論できない。
謙虚であれ:
「私もほとんどの人もとても重要と考えているだろうことは、知的に謙虚に行動するということ。
これが意味するのは『自分が間違っていたらどうする? 他の人が正しく自分が間違っているかも』ということだ。」
自分が間違える可能性を認めること、これがポートフォリオ運用の基本だ。
結果、確率、さらにもう1つ重要なのがオッズ:
みんなスーパーボウルでフィラデルフィアが勝つと思っている。
でも、そういう予想は難しくはない。
難しいのは、起こりそうな結果以外を想定することだ。
・・・
言い換えれば、フィラデルフィアに賭けたいか、他のフィラデルフィアよりかなり弱いチームに賭けたいか?
弱いチームのオッズが極めて大きいなら、弱いチームに賭けることにも合理性が生まれる。
たとえば、米国株市場を上がると予想することは簡単で、そうした予想の価値はあまり高くない。
価値のある予想は、むしろ、いつ落ちるかを的確に予想することだろう。
いや、いつどのくらい落ちるかを確率つきで的確に予想することだろう。
なお、マークス氏とオークツリーから、年末の推薦図書10冊が公表されている。
冒頭に紹介したデューク氏の著書も筆頭に挙げられている。