ビル・グロス氏が「タイム・トラベラー」と題するインベストメント・アウトルックを公表している。
最近ゴルフをしている最中20年前にタイムスリップした話だ。
お年がお年だけに心配になる話だが、どうやらご本人は至極ご健在のようだ。
グロス氏が20年前にタイムスリップしたのには、今と20年前で1つ重要な共通点があるためらしい。
「10年債利回りが2004年の初めと変わっていないのは注目だ。
ただし、その間には大きな変動があり、私の意見ではこれはFRB失策によるものだ。
2007年までは引き締めすぎで、その後2009-2022年は緩すぎた。」
米10年金利(青:名目、赤:実質)
2007年より前の話は忘れよう。
リーマン危機によってすでに清算済みだ。
問題は、一昨年まで緩すぎた金融政策の結果だ。
英国債市場に数百年前からある古い言葉に『イギリス人は多くのことに耐えられるが、2%には耐えられない』というのがある。
これが意味するのは、低すぎる金利が金融市場に『熱狂』を生み出すということ。
グロス氏は、長期金利が今と同じだった20年前から今まででNASDAQ 100が12倍になったことを紹介している。
株価に追い風となった要因を挙げる一方で、過去2年で10年実質金利が300 bp上昇したのに株式市場が影響を受けなかった点も指摘している。
同氏は、根拠なき熱狂を感知することは難しいと認めているが、書きぶりからは、それが存在すると信じていることがうかがわれる。
グロス氏は米10年債について「供給が多すぎる」と指摘し、弱含み(=利回り上昇)を予想している。
過去1年、著名債券投資家が債券を推奨してきたが「理解できない」と斬って捨てる。
グロス氏の推奨はもう少しひねりがある。
「逆転したイールドカーブがフラット化するのに賭けろ。
経済がポジティブであり続ける限りは、遅かれ早かれイールドカーブは右肩上がりにならざるをえない。
私は2年債を買い、5年と10年を売っている。」
今後債券利回りはイールドカーブ全体について低下するのではなく、フラット化・スティープ化するとの予想である。
このため、長めを売って短めを買う戦略を取っているのだ。
グロス氏は今後の市場について波乱含みの展開を予想している。
今後12か月、そしてその後、私たちはすべてタイム・トラベラーになる。
安全な旅を。
過度な熱狂に備えろ。
グロス氏が「12か月」と言ったのには意味があるのだろう。
概ね12か月のうちにそこそこの変化があり「その後」も後を引くと言いたいのだろう。
そしてその間、2004年以降といくらか韻を踏むと匂わせているのかもしれない。