ブリッジウォーター・アソシエイツのカレン・カーニオルタンブール氏が4月にコンファレンスで話した内容が会社から公表されている。
興味深い2点を紹介しよう。
「すべての市場トレーダーの記憶にとって、需給が債券価格を決めていた頃からとてもとても長い時間が過ぎた。」
カーニオルタンブール氏がSemafor主催のコンファレンスで、米債需要に見られる変化について語った。
カーニオルタンブール氏によれば、2000年代初めは新興国市場等からの(自国通貨安を狙ったドル買いの結果の)強い米債需要があったという。
リーマン危機後は、量的緩和にともなうFRBによる米国債の買いがあった。
これらは、いわば債券価格(≒利回り)を無視して買ってくれる買い手だった。
その構図が今変わりつつあるという。
2025年頃、初めて、政府が資金調達する際、「いい金利だね。他よりこれに投資しよう」と言ってくれる民間の資本を探す必要に迫られることになる。
この発言から読み取るべきことは何だろう。
1つは、量的引き締めが、単に量に関するものではなく、金利に関するものだということ。
もう1つは、単にFRBの政策正常化というだけでなく、政府の財政政策を変える必要がありそうだということ。
決して対岸の火事ではあるまい。
もう1つ興味深かったのが、多くの人にとって予想外だったであろう長く続くドル高だ。
カーニオルタンブール氏はこれを、金融資産における「オランダ病」と呼んでいる。
オランダ病とは、豊かな天然資源を輸出した結果、自国通貨高となり、輸出業が衰退し失業率が高まる現象のこと。
米国の場合、これが天然資源でなく金融資産で起きているというわけだ。
「世界における自国以外での貯蓄金額の80%が最終的に米国に向かっている。
みんなが米国がそこまで好きなのではなく、株価指数を見ても、株式に投資したい場合、世界のどこに株式が存在するかといえば、ほとんど米国だ。
債券に投資したくても・・・そんなに投資する金融資産に選択肢はない。」
カーニオルタンブール氏は、米金融資産のパフォーマンスが優れていることを認めつつ、同時に消去法的に買われている面もあるという。
現在のドル高は、貿易赤字を超える米金融資産への需要を示すと分析している。
しかも、その行先は債券から株式に変わってきているという。
米国向け投資の目的が、外貨準備積み増しから投資へと変化しているのだ。
つまり、投資主体が中央銀行から民間セクターに変わっているのだ。
なぜ今回のドル高は止まらないのか。
理屈で言えば、貿易であれ投資であれ、ドル高が行き過ぎれば自然とブレーキが踏まれるはずではないか。
カーニオルタンブール氏は、外国勢の米国株投資リターンを株価と為替に分けて説明している。
その利益の可否を決める主要因は株価であってドル相場ではない。
ドル相場はパフォーマンスにおいてはおまけだ。
だから、たくさんのお金が集まり、構わずドル相場を支えている。
このため、仮に極端な関税で貿易赤字が減ったとしても、米金融資産への需要がドル高圧力となり続けるとカーニオルタンブール氏は予想している。
このコンファレンスのパネラーはカーニオルタンブール氏の他にケビン・ウォルシュ元FRB理事とアダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長。
最後に「来年にかけての最大のリスク」を問われると、3人とも言い方は違うものの《戦争》と答えていたのが印象的だった。