米インフレが鎮静化するかに見える中、FRB利下げやソフトランディングへの期待が高まっている。
しかし、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツは、長めの米金利についてまだ上方を見ているようだ。
債券利回りは、現在の私たちの世界にとって持続可能な資本の価格を設定するまでまだ上昇する必要がある。
ブリッジウォーターのカレン・カーニオルタンブール氏が自社サイトで書いている。
この主張の興味深いところは、債券需給にスポットライトを当てているところ。
とかく金利見通しではインフレ予想を中心に語られることが多いが、同氏の論考は債券需給、資金需給が中心となっている。
理論的にはインフレだろうが債券需給だろうが、同じ現象の異なる側面なのかもしれないが、それでも新鮮な印象を受ける。
「経済と金融市場にとって1つ最も重要な価格を挙げるなら、それは債券利回りだ。」
なんと潔い意見表明だろう。
投資のユニバースにおいては債券は一部であるはずだが、その利回りこそリスク資産への投資においても重要なのだ。
FPの運営元である浜町SCIは中小型日本株投資を生業としてきた。
ところが、日米の国債・物価連動債の利回り(かつては為替も)を取りまとめて発信してきた。
このため、債券ファンドと誤解されることもあったが、債券は弊社が最も嫌う投資先である。
カーニオルタンブール氏の話に戻ると、同氏の主張は現在が過渡期にあるということ。
スタート地点はリーマン危機後の10年余り。
FRBや諸外国の外貨準備など、価格と関係なく買う投資家が債券価格(≒利回り)を決める時代だった。
今その時代が終わり、経済や市場が価格(金利)を決める時代へと変化しつつある。
同氏によれば、この変化にまだ数年はかかり、より高い金利が求められるという。
もちろん、すでに存在する政府債務やFRBの資産圧縮は大きな要因だろう。
しかし、それは全体の一部にすぎないようだ。
カーニオルタンブール氏は今後も債券発行が増える要因を挙げている:
構造的に増えた財政刺激策、AI等関連支出、再軍備、サプライチェーン再構築、エネルギー転換、エネルギー安保。
なるほど、米国に限らず、政府はお金がいくらあっても足りない。
今後も赤字国債に頼らざるをえなくなるのだろう。
しかし、ここで疑問を抱く読者もいるはずだ。
イールドカーブが将来期待を織り込むなら、なぜ今後さらに金利上昇が必要になるのか。
将来の債券需給はすでにイールドカーブに織り込まれていないのか。
カーニオルタンブール氏は、債券の「ペントアップ需要」という概念でこれを説明している。
長い間、経済合理性のない金利が続いたため、債券需要が後倒しされてきたというのだ。
金利の正常化が始まり、まだ十分に高くない利回りでも投資家が飛びついている。
これが「新たな資本コストへの調整プロセスを遅らせている」のだという。
このペントアップ需要が徐々に消化されれば、需要は低減し、金利は上昇すると予想される。
債券市場が需要不足にならないためには、より高い債券利回りで投資家を引き付ける必要がある。
そこで問題となるのがイールドカーブの長短逆転だという。
米イールドカーブは近年、ボルカーショック時以来の長い期間、逆転が続いている。
これでは債券投資家がキャリーを稼げない。
正常化した資本コストは、こうしたリスクプレミアムをそこそこ含むことになる。
ほどほどのターム・プレミアムが必要なら、長期金利は上昇することになる。
短期金利が下がるのでもいいが、今や短期金利にも大きくは下がれない理由があろう。