オークツリー・キャピタルのハワード・マークス氏が、これまで語ってきた自身の信念を再度自身に何度も何度も語り掛けるようなMemoを書いている。
・・・以前書いたが、将来の気まぐれなマクロ環境の影響を被る投資家ほかの人たちは「will」「won’t」「has to」「can’t」「always」「never」などの言葉の使用を避けるべきだ。
マークス氏がMemoで書いている。
政治・経済・投資は心理的変動・不合理・ランダムさの影響を受ける分野だとして、断定的な発言を控えるべきと注文している。
同氏は今回のMemoを大統領選や外交に関して断定的な予想を述べる人々を茶化すところから始め、経済・市場における落とし穴まで論じている。
その最たる例が2016年の大統領選における事前予想だ:
(a) ヒラリー・クリントン勝利
(b) ドナルド・トランプ勝利なら株は大暴落
特に(b)はポール・クルーグマン教授らが声高に選挙民を脅かしていた様子が記憶に新しい。
(さすがに最近では、同教授の予想能力のなさは広く知れ渡るところとなっている。)
市場では財政政策などを材料に(b)に反対の意見が多かったが、全体としてはなぜかこうした予想を受け入れる人が多かった。
(a)も(b)も見事に外れたわけだが、マークス氏はこの例の中に2つのエッセンスを指摘している。
- 何が起こるかはわからない
- 実際に起こることに市場がどう反応するかはわからない
なるほど、市場とは2階構造になっているのだ。
2016年の選挙でトランプ陣営で中心的役割を担ったのが高名なアクティビスト投資家カール・アイカーン氏だ。
同氏は選挙当日トランプ勝利が濃厚になると陣営の会場を離れ、オフィスに戻ってポジションの調整をしたと伝えられた。
勝利した選挙現場を放っておいて自身の仕事に戻ったわけだ。
アイカーン氏が結果を受けてポジションを調整したということは、少なくとも自陣勝利を確実視していなかったのだ。
何が起こるかは確信していなかったが、その結果、市場がどう反応するかはある程度の確信を持って予想していたのだろう。
この2階構造ゆえに、どんなに高名で優れた投資家であっても事前に正しく予見するのは難しい。
マークス氏のMemoに戻ると、経済・市場の読み違いはいつも起こっているとして近年の例を挙げている。
- 2021年: FRBがインフレ上昇を「一過性」と軽視
- 2022年: 利上げにより景気後退が起こると見て、市場は2023年中の利下げを予想
まず、前段のマクロ予想。
マークス氏は経済学者の予想能力に対して極めて懐疑的だ。
ある投資ファンドのエコノミストの下した結論を紹介し、学者をディスっている。
「『私はフィラデルフィア連銀の心配指数(次四半期の実質GDP減少の確率)を景気後退終了の指標として使っている。
調査対象の経済学者の50%超が次四半期の実質GDPが減少すると予想する時までに景気後退は終了するか、終了が近づく。』
つまり、確実と言える唯一のことは、経済学者が何1つ表明すべきでないという結論だ。」
(次ページ: 投資家への奨め)