ゴールドマン・サックスのテレサ・アルベス氏が、米景気後退に対するヘッジを為替ポジションで構築する方法を紹介している。
「私たちのメインシナリオは来年、実際には米経済が景気後退を回避するというものだ。」
アルベス氏は自社のYouTubeチャネルで、景気後退の可能性を論じる前に、景気後退を予想しているわけではないと断りを入れている。
こう言いながらも、あえてリスクシナリオへの備えを提案する背景には、米景気への心配を日ごとに強める市場心理があるのだろう。
同氏は2つの通貨に注目している。
1つ目は日本円だ。
振り返ると、円はしばしば安全逃避通貨として機能してきた。
円は通常、景気後退期にドルに対して上昇してきた。
理由は、円がドル利回りの変化に対して敏感だからだ。
これはよく知られた傾向だ。
もっとも、この傾向は日本が意図して作り上げた状況によるものと言ってよい。
世界の景気はかなり連動しており、景気が過熱しインフレが上昇すると、まず米国、次に欧州、最後に日本が金融を引き締める。
外需依存の強い地域がなるべく自国通貨安を享受したいがために起こるラグである。
これが円キャリーまたは同様のポジションを拡大させる。
8月上旬に見られたとおり、米国が金融緩和に転ずると、これらポジションが巻き戻し円高となるのだ。
景気後退期、外需依存の強い日本企業は大きな業績悪化を経験する。
米国では市場全体のPERがマイナスに沈むなどということはほとんど見られないが、日本では大きな景気後退ごとに市場全体のPERがマイナスになっても誰も驚かない。
結果、株価の落ち込みも激しくなる。
つまり、円は安全逃避通貨ではあるが、日本株はそうではないということだ。
景気後退期に日本でも金融緩和が実施されるなら、信用度の極めて高い円債は安全逃避資産として機能するかもしれない。
もっとも日本の利下げ幅の余地は小さいから、ささやかなヘッジ、資本保全のレベルの話だろう。
投資を自国通貨建て名目評価額を増やすことと狭義に定義せず、自身の資産の価値を高めると考えるなら、日本株が大きく下げた時、円高となることはせめてもの慰めになる。
あくまで価値を判断基準とするなら、アメリカ人だろうが日本人だろうが、円高の効果は共通のものだ。
しかし、同時期にもっとよくない影響を及ぼす他の要因(株価、景気等々)に目を奪われて、円高を絶対悪と捉える人は多い。
これはかなり危険な思考だ。
この思考は景気後退期に必要以上の株安を引き起こしかねない。
さて、アルベス氏が挙げたもう1つの通貨ポジションはメキシコ・ペソのショートだ。
「ペソは景気後退期(ドルに対し)急激に下落する傾向がある。・・・
メキシコ経済は米経済と密接に連携しているが、ボラティリティが高いため、米景気後退期に大きな打撃を受ける。」
これらの観察から自ずと導かれるポジションは単純明快だ。
ペソのショートと円のロングは米景気後退リスクに対し有効なヘッジになるだろう。
日本人の投資家のほとんどはすでに円を多くロングしているだろうから、ペソを売ればいいということか。
もちろん、アルベス氏自身が最初に言ったように、米経済の方向性は決まったものでもない。
米経済が心配と逆に振れる可能性もあるだろうから、これをリスクヘッジと呼べるのかどうかは様々意見があろう。