ビル・グロス氏がサンクスギビングの祝日前に米財政と債券相場を心配するツイートをつぶやいている。
「ラッファー・カーブが戻ってきた!!
経済成長で財政赤字が賄えるという。」
グロス氏がXでツイートしている。
ラッファー・カーブとはアーサー・ラッファー教授が提唱した最適な税率に関する議論。
税率を最適水準に設定することにより、税収を最大化できるとする主張。
低すぎる税率は税収を減らすが、高すぎる税率もまた経済を悪化させ同じく税収を減らす。
このため、最適な税率が中庸に存在するというもの。
レーガン政権や第1次トランプ政権において減税の根拠として用いられた。
ラッファー教授は2016年大統領選でトランプ氏の経済顧問を務め、2019年に大統領自由勲章を受けた。
経済学における功績というより政治上の観点から評価を受けた学者だ。
かつての債券王グロス氏はもちろん否定的だ。
1度目の時はうまく行かなかった・・・ 今回もうまく行かないと思う。
ラッファー・カーブへの批判は多く、当初は《ラファブル・カーブ》と揶揄された。
かのロバート・シラー教授も2019年にラッファー・カーブを1種のナラティブにすぎないと話している。
シラー教授は、ゼロから税率を高めるにつれ税収が上がり、ついにピークを打ち、その後低下すること自体、当たり前のことと話した。
(実際、この考え自体は14世紀のイブン・ハルドゥーンまで遡るとの指摘がある。)
重要なのは、現在の税率がピークの前なのか、後ろなのか、であり、そこに定量的な証拠となる事実が提示されているかなのだ。
シラー教授は、事実か否かは関係なく、同カーブのナラティブがエピデミック(大流行)となり、減税を実現させたと分析している。
ラッファー・カーブは専ら減税を主張する根拠に用いられる。
つまり、このカーブに言及する人たちは、税率が高すぎることを前提として議論をする。
しかし、こういう大衆受けする政策が長期的に財政再建につながるとの証拠は乏しい。
仮に減税で自然と財政が再建されないなら、すでに政府債務が膨らんでいる今、その状態が持続可能かどうかが問題になる。
その点で、米国の先生は日本だろう。
可能な限り金融緩和を続け政府の資金調達コストを抑えることで、持続可能性を維持できるかもしれない。
結果、通貨安やインフレとなって国民が困窮しても、政府・中央銀行は《ある程度の通貨安・インフレは望ましいこと》と開き直るのだろう。
米国ではインフレが鎮静化しつつある現在でもインフレや物価水準が問題視されている。
次のドル安サイクルで、米インフレはどう影響を受けるだろう。
外需が増えたから問題ない、と国民は納得するのだろうか。
グロス氏は、FRBの動向が重要と指摘する。
金利は、2025年の新FRB議長人事により影響されることになろう。
どちらとも予想しない(I’m flat)。
パウエル議長が遅ればせながらでも2022年に大幅利上げを実施したことは、米国が日本とは異なるレジームにあることを示した。
米金融政策は財政従属にはない。
結果、金融政策が放漫財政を牽制する構図が生きている。
かつてFRBに口を出すことの多かった新大統領の下でもそれが続くのか、それが重要だ。
日本では2013年の「政府・日本銀行の共同声明」がまだ生きている。
(政府はこれまで何度かデフレ脱却をアピールしてきたのに、このアコードが続くのは奇妙だ。)
アコードは過度な通貨安・インフレが顕在化するまではありうる方針だっただろうが、副作用が顕在化した今では財政従属を明文化した文書となってしまっている。
何度も問題視されつつも生き続けている状況は、日本の行く末の確率分布がより偏在していることを示唆しているのではないか。