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レイ・ダリオが試算する財政再建の高いハードル

レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から「第3章 数字と等式のしくみ」を紹介しよう。


この章はある意味ダリオ氏の新著に対する本気度を示しているのかもしれない。
ダリオ氏はこれまでの著作・言論においてほとんど数式を用いてこなかった。
マクロファンド流の考え方を数式なしで示すのはさぞかし難しかったはずだ。
それをあえて選んだのは、なるべく幅広い読者にメッセージを送ろうという意思だろう。
ところが、今回はその領域を一歩踏み出そうとしている。

この章では財政にかかわる基本的な関係式が示されている。
債務、返済負担、税収、支出、金利、経済成長率、貯蓄などの関係式であり、ダリオ氏は簡単な仮定を設けて目の子計算、感度分析を行っている。
例えば

例えば、米政府債務 対 収入(ほとんどは税収)は執筆時点で約580%だ。
利払いを除く支出は今後10年で平均で所得の約115%と予想されており、(それらの差である)基礎的赤字は所得の約15%だ。
既存の債務への利払いのため、米国は毎年所得の約20%を借り入れている。

仮に、金利が所得の成長率と等しいとし、米国の実際の基礎的赤字予想(非金利費用と所得の差の実額)を用いると、今後10年で米政府債務 対 所得は約150%増え580%から730%になると予想される。

あまり日本が言えることではないが、米国は財政問題に手を打たないと、かなり急速に財政が悪化するようだ。
債務が(経済や所得の比で見て)増えることは当然信用状態の悪化を示唆し、市場を操作しない限り金利上昇圧力となるだろう。

金利上昇が信用リスクを悪化させ、それが債務(国債等)の需要を減らし、それが金利を上昇させることは、典型的な『債務の死のスパイラル』だ。

こうならないよう政府の債務負担を減らさらないといけない。
ダリオ氏は4つの手法を挙げる:

  • 緊縮(支出減): デフレ的
  • 債務のデフォルト/リストラ: デフレ的
  • 貨幣増発による債券買い入れ: インフレ的
  • 増税:(ここでは書かれていないが)デフレ的

財政が悪化していくと政府は選択を迫られることになるが、ダリオ氏は過去の事例の研究から、次のような選択が行われると断言する。

システムの長期的健全性にとっては最良の道ではないが、最も安易な道は、政府が中央銀行に貨幣を発行させ国債を買い入れさせ、金利を許容範囲に抑え、システムに貨幣を供給することで債務問題を解決し、使いたいだけお金を使うことだ。
結果、債務が自国通貨建ての場合は間違いなくそれが行われることになる。

これはこれまで日本で行われていたことだ。
日本の量的緩和は金融政策という看板で行われてきた。
それがうそとは言わないが、財政支援の意図がまったくなかったというのは少々きれいごとすぎる。
行われたことは外形的には同じであり、日本は知ってか知らずかこの道を歩いていたことになる。
(少なくとも知識のある政策決定者なら、知っていて好都合と考えていたはずだ。)

ダリオ氏は米国について、今後10年間で政府の債務負担(債務 対 所得比率)を安定させるためにどうすればよいかを試算している。

  • 金利を抑制する場合: 名目金利を1.0%にしないといけない。
  • 経済成長による場合: 名目成長率を約6%にしないといけない。
  • 増税による場合: 政府収入を11%増やさないといけない。
  • インフレの場合: インフレを4.5%にしないといけない。

ここで上がった4つの変数は独立変数ではなく、実際にはうまく組み合わせることが必要だろう。
ダリオ氏も後に第16章で最適の組み合わせを提案するとしている。
ただ、上記4つの極端な例を見るだけでも、財政再建の難しさがうかがわれる。
詳細は第16章を待ちたいが、金利による場合を見るだけでは、米国は単なるQEでなくイールドカーブコントロールを行う必要があるのではないかと想像させる。


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