レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から「第4章 典型的な順序」を紹介。
この章は非常に端的に政府・中央銀行の破綻プロセスについて書いている。
過去100年余りにおこった大きな債務危機を振り返り、特に35の事例に注目して抽出したプロセスだ。
その概要は(要約)
- 民間・政府部門が債務過多に
- 民間部門を救済するため政府部門の債務がさらに増える
- 政府部門で債務スクイーズ(国債への需要不足)が起こり、次の2つのいずれかに:
a) 金融・財政政策の転換(引き締めへ)で国債需給が再び均衡
b) 自己強化的に国債が売られる(後の段階で債務整理が行われ、債務と返済負担が減る) - 3 b)の場合同時に
a) 市場が金融を引き締め、b) 経済を弱め、c) 貯蓄・準備金を減らし、d) 通貨に下落圧力を与える
中央銀行は信用緩和(直貸しや債権買取り)を行い、通貨が下落
長期金利が短期金利より速く上昇し、同時に通貨下落 - 債務危機となり政策金利がゼロになると、中央銀行は貨幣を発行し国債を買入れ、長期金利を押し下げ、信用緩和も
- 国債売りと金利上昇が止まらないと、中央銀行の資産(国債)・負債(準備預金)が逆ザヤになって損失が発生
債務超過が大きくなると赤信号
中央銀行が死のスパイラル(金利上昇、債務超過拡大、貨幣増発、貨幣減価、国債売り、金利上昇、・・・)
「私はこれを中央銀行の破綻と呼んでいる。」
中央銀行は貨幣発行できるのでデフォルトはしないが、貨幣の減価、インフレ的景気後退・不況をもたらす - 債務はリストラされ減価
最善の場合「美しきデレバレッジ」(デフレ的手法とインフレ的手法をうまく組み合わせ、デフレやインフレを最小にしつつ債務削減)が行われる。 - (債務リストラ時)特殊な課税や資本規制が敷かれる
- 債務が(所得との)均衡を回復
インフレ的不況、資産売却で政府預金が増加、ハードカレンシーやハードアセットと紐づけることで通貨や金融が安定へ
初期段階では貸し手/債権者に報い、借り手/債務者を罰し(厳しい金融引き締めと高い実質金利)、貨幣・信用の信用度が再構築される
さて、米国や日本は今どの段階にあるのか?
興味深いことに両国とも「債務スクイーズ」というほどの事象はまだ発生していない。
米国については相当にメリハリのある金融引き締めが行われたところを見ると、まだ3の分岐点にあるのではないか。
つまり、まだ自ら均衡を取り戻しうる段階だ。
日本については特殊だ。
主要国一数字の悪い日本で債務スクイーズが起こっていない理由は、ホーム・カントリー・バイアスが強い、停滞により民間部門の貨幣需要が低い、などいろいろ考えられるかもしれない。
(特に後者はあまりよい理由ではないだろう。)
ただし、今後、日本人が円から外貨へ資金をシフトしたり、経済がいよいよ回復して貨幣需要が高まれば、状況は変化するかもしれない。
日本の場合、3をスキップして4、5が心配されているようにも思える。
ダリオ氏は7から9に至るプロセスがスムーズに進むかどうかについて3つの要因を挙げている:
債務が自国通貨か否か、債権者が国内か否か、準備通貨か否か。
準備通貨であればプロセスが比較的容易になるというものの、ダリオ氏は諸手を挙げて喜んではいない。
そうは言っても、歴史を通して言えることは、準備通貨を擁する政府には特権を乱用してその特権を失うのに十分以上の借金をする傾向がある、ということ。
そうした行動が凋落をより突然で苦痛に満ちたものにしてしまう。