レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から第8-11章を紹介。
前章までは長期債務サイクルの典型的プロセスについて説明されていた。
第8-11章以降では、現実の歴史と典型的プロセスの照合が行われている。
ダリオ氏は様々な国でのそれぞれのサイクルにおいてバリエーションがある点を認めている。
つまり、歴史が完全に同じことを繰り返すわけでないことを認めている。
それでも、そこそこ韻を踏むもの、と言いたいのだ。
多くの人が今関心を持っているのは、世界に最も強い影響を及ぼしている米国の長期サイクルであろう。
ダリオ氏は第8章で、今回の米国の「大きな債務サイクル」が1944年(ブレトンウッズ協定の年)から始まっていると書いている。
狂騒の1920年代に蓄積した民間債務は1929年の大暴落につながった。
続く大恐慌から脱するためにニューディールが行われ、債務の多くが結果的に民間から政府へと転嫁された。
政府の債務増は第2次世界大戦まで続く。
仮に現在が長期サイクルの終期だとすると、確かに符号する点がある。
リーマン危機後、債務のありかが民間から政府へ大きくシフトした点である。
ダリオ氏は、ゼロ金利(短期)になった1933年と2008年を対応する時点と捉えている。
では、今後政府債務のリストラが始まり、新たな長期サイクルへ移行するのか。
もちろん誰にもわからないことだろう。
ダリオ氏もこの可能性を2010年代半ばから強調し出したが(パンデミックもあって)これまでのところ早すぎた予想になっている。
ここでは、第4章で抽出された典型的な9つのステージのうち、ステージ3 a) 再び均衡を取り戻す に当たると思われる例を2つ紹介しよう。
1つ目は1970年代のインフレを退治するために行われた強烈な金融引き締め、ボルカー・ショックだ。
1971-72年から1981-82年までの10年間はとても痛みの大きな、極めて典型的な債務リストラと債務の貨幣化の10年だった。
これらは先述したひな型に沿って起こった。
典型的なことに、その後の10年は似ているというより正反対の10年となった。
つまり、ボルカー・ショックという荒療治によって、米国は債務スパイラルを脱したのだ。
ここから米金利は以前と「正反対」に長期低下に転じている。
次の3 a)の例はクリントン政権化での財政黒字化だ。
この時期(1990年代半ばから2000年)クリントン大統領は大きな財政赤字から財政黒字への転換に成功した。
これは、問題にうまく対処する方法を考える上で考慮すべきケースだ。
ダリオ氏は、好景気というチャンスを捉え超党派で財政再建が実行された点を重視している。
こうした3 a)もありながら、それゆえに金融が緩和的になり、再び債務が積み上がり、それが弾けていく。
終局を感じさせたのがゼロ金利を打ったリーマン危機だ。
これはステージ5にあたるものだろう。
ダリオ氏は多分に6(「中央銀行の破綻」)への発展を示唆しているようにも思えるが、それが決まった未来ではあるまい。
(もしそう思うなら、ダリオ氏が警告を続ける意味もない。)
状況は相当に厳しいが、再び均衡へ戻る可能性もなくないはずだ。
2022-23年にFRBがFF金利を計5.25%引き上げた時、多くの人は驚き怯えた。
ボルカー・ショックほどではないが、相当な幅、相当な速さでの利上げだった。
つまり、FRBには強い意志があることが示された。
一方の米政府の方はまだ不透明だ。
政府効率化省(DOGE)に期待がかかるが、どれほど状況を引き戻せるかは明らかでない。
また、均衡への回帰が上記2例のいずれに似てくるのかも注意すべき点だろう。
あえて極論を言うならば、道は3つに分岐し、クリントン村、ボルカー村、「中央銀行の破綻」村へと続いているのかもしれない。