レイ・ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(国家はどのように破綻するか)の草稿から第12-14章を紹介。
見方の問題ではあろうが、日本の現状について少し気づきを与えてくれる分析になっている。
第12章は主に近年の米国の状況、第13章は中国について述べられている。
ここでは第14章「日本のケースとその教訓」を紹介しよう。
ダリオ氏はバブル崩壊後の日本政府の政策対応のまずさを指摘する。
「1990年から2013年までの日本政府による債務問題の取り扱いは、やってはいけないことそのものだった。
美しいデレバレッジ実行のために行うべきと私が書いたことと真逆のやり方だった。
日本政府の債務のほとんどは自国通貨建てであり、難しい債務者・債権者間の関係のほぼすべてが日本の当事者間のものであり、日本は対外債権国だったのだから、美しいデレバレッジを行う能力があった。」
具体的に4点を指摘し、不十分な政策により日本がデフレに苦しむことになったと解説している。
- 不良債権処理が遅れ金融仲介機能の不全が続いた。
- 雇用やコストに対する政策が硬直的だった。
- 金利を名目成長率やインフレ率より低く引き下げなかった。
- 債務のマネタイゼーションを行わなかった。
まずダリオ氏が「美しいデレバレッジ」と呼ぶものを復習しよう。
政府が債務負担を減らすには様々な方法がある。
増税や歳出削減がまず浮かぶが、これはデフレ的な政策だ。
債務のデフォルトやリストラもデフレ的だ。
一方、債務を増やし財政支出し、同時に大量の債務を中央銀行が買い入れ金利を押し下げるなら、これはインフレ的だ。
この場合、政府単独の債務は増えるが、中央銀行との連結(日銀券を除く)では減り、さらにインフレにより債務の実質的負担が減る。
「美しいデレバレッジ」とは、デフレ的な政策だけでなくインフレ的な政策も組み合わせ、デフレを回避しつつ債務の負担を減らせというメッセージだ。
ダリオ氏は、2013年以降のアベノミクスと異次元緩和が、まさにそれに着手したものだと解釈している。
興味深いのは、政策の目的が何であったかだ。
通常、アベノミクスや異次元緩和の目的が、政府債務を持続可能な水準まで戻す、つまりある種の財政再建にあると話す人は少ない。
(少なくとも公衆の前ではタブーとなっている。)
しかし、外国人からすれば、異次元緩和はむしろ「デレバレッジ」を目的としたものに映っている。
バブル後の政府の肩を持つわけではないし、日本がデレバレッジに遅れたのは間違いない。
上記4点のうち2つ目を除く点では、すべて債務者を助ける、言うなれば「徳政令」に似たものになっている。
債務問題の張本人である債務者を助けることに、日本の社会はモラルの上で躊躇したのだ。
(もちろん、そうすれば責任問題に発展するのは明らかだった。)
ダリオ氏はこの事情をよく理解しているはずだ。
米国もまたリーマン危機後にウォール街デモで同様の論点を経験している。
それでもダリオ氏が「美しいデレバレッジ」を主張するのは、モラルより実利を取るべきとの考えなのだろう。
これが歴史の必然であり、いったんモラルを忘れ、まず政府と社会を立て直すしかないとの達観なのだ。
(次ページ: アベノミクスでの敗者とは? 見えない財政再建が進む)