ジョセフ・スティグリッツ教授は、トランプ政権が米国を金持ちのための「無法地帯」に変えようとしていると批判している。
関税により弱者を救おうというポーズの陰で進められる動きを警戒している。
ドナルド・トランプは急速に米国を史上最大の租税回避地に変貌させようとしている。・・・
これは、250年に及ぶ制度による歯止めを弱体化させようとする広範な戦略の一部であろう。
トランプ政権は国際条約に違反し、利益相反を無視し、チェック・アンド・バランスの仕組みを解体し、議会により与えられた予算を取り上げた。
スティグリッツ教授がProject Syndicateで、いつものように権力者の専横を厳しく糾弾している。
教授は、政権のやり方を「法の支配を踏みにじる」ものと批判している。
確かに、米国では保守層を含む多くの人が、米国における法の支配が失われつつあると心配している。
法の支配は、米国にとって最大の売りの1つだっただけに、世界が米国からそっぽを向くと心配しているのだ。
今回の寄稿の主たるテーマは租税回避だが、本題に入る前にスティグリッツ教授はトランプ関税など他の政策についても丁寧に誤りを指摘し批判している。
この政権の政策は理屈に合わないことで溢れているから、教授にとっては《突っ込みどころ満載》といった感じだ。
それぞれがいかに米国を悪い方向に向かわせているか力説しているが、すでに十分に認識している読者にとっては、もはや気分を暗くするぐらいの効果しかない。
覇権国家が暴走を始めると、他国にはそれを正す方策はほとんどないのが現実だ。
今回の寄稿の主たるテーマは租税回避。
スティグリッツ教授は、トランプ政権について、米市民が国内にいながらにして租税回避を行いやすくするような変更を行っていると指摘する:
- IRS(税務当局)職員削減: 2月には現状の100千人のうち6千人を削減すると報じられた。スティグリッツ教授は、DOGEが50千人削減を目論んでいるとし、これで今後10年で2.4兆ドルの歳入が失われると主張している。
- 企業透明化法: 3月には、企業オーナーの開示を義務付ける企業透明化法の違反に対し罰しないとした。
- 暗号資産: 規制緩和により「世界の違法経済を助長した。」
スティグリッツ教授の政権評はこうだ。
「今目の当たりにしているのは、トランプ、マスク、彼らの億万長者の仲間があからさまに、オフショア世界に存在する無法地帯に倣ったある種の資本主義を作り上げようとしているということだ。
これは単なる税における反乱ではなく、富と権力の極端な蓄積を脅かす法律に対する全面攻撃だ。」
スティグリッツ教授の言い回しはいつもながら直截的かつ辛辣だ。
トランプ政権の政策の多くは強い金持ち・企業にとって有利なものと言わざるをえない。
皮肉なのは、こうした大きな恩恵を受けることのない人たち・企業が、トランプ政権を支持してきたことだ。
回って来る、ほんのわずかな恩恵のためにだ。
それほど、米国の弱い層は追い詰められてきたのだろう。
スティグリッツ教授は、米国以外の国際協調に期待をかけている。
「米国は国際協定から距離を置いているが、皮肉なことに、米外交の不在こそが、より意欲的な目標を達成しようという多国間交渉強化の助けになるかもしれない。・・・
今こそ諸外国は公正・効率的な世界の税制体系設計に取り組めるはずだ。・・・
国際協調と包摂的制度を通して極端な格差に対処することが、権威主義台頭に対する真の代替手段だ。
米国が自ら選ぶ孤立化は、真の多国間でのグローバル化、21世紀のGマイナス1を再構築する機会を生み出している。」
スティグリッツ教授は、当面半ば米国を見限り、諸外国の協調に望みをかけている。
確かに、特に「解放の日」以降、世界に反米、あるいは反《親米》の空気が広まったように見える。
ただし、教授の期待にどれほどの実現性があるかには疑問符も付くだろう。
今の米国は確かにひどいが、諸外国も多かれ少なかれ脛に傷を持つ国ばかりだ。
最近の動向を見る限り、大統領は米国債安や米ドル安に強く反応しているようだ。
マスク氏は、テスラ社の業績に反応している節がある。
結局、自分たちの懐が痛むことが最もよく効く薬なのだろうし、そこに市場原理が効いていることは一縷の望みになるのかもしれない。