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アスワス・ダモダラン NVIDIA株・AI関連株 一度壊れたナラティブは戻らない:アスワス・ダモダラン

アスワス・ダモダラン ニューヨーク大学教授が、週初めのDeepSeekショックについてコメントし、同ショックを勘案したNVIDIA株の価値評価を公表している。


先週水曜日始まった学部生向け価値評価の講義中、私は、よい価値評価はナラティブを数字につなげるものだと話した。
そして、最もよく考えられたナラティブであっても、時間とともに変化すると話した。

ダモダラン教授が自身のブログで、適切・妥当なエクイティストーリーを把握し、それを数値化することの重要性に触れている。
そして、そうしたストーリー/ナラティブは常に変わりうると話している。

この言葉は私たちに2つのメッセージを与えているだろう。
1つ目は、永遠に不変なストーリーなどありえないであろうこと。
そして、不変と思われたストーリーが変化する時、変化やその影響が大きくなりうるということだろう。
数十年前、ウォーレン・バフェット氏は一般の投資家に対し、投資は長期投資とすべきで、いったん投資したら忘れてしまいなさいと説いた。
しかし、投資環境の変化とともに、そういう楽な話はなくなってきているのだろう。
長期にわたって素晴らしい銘柄は発掘され尽くし、今素晴らしい銘柄が何十年も素晴らしくあり続けられる時代ではなくなってきている。
一般の投資家であってもある程度の《途上与信》は必要なのだろう。

2つ目は、当たり前だが、価値評価の前提に用いるストーリー/ナラティブが適切・妥当でなければいけないということ。
セルサイドのスピーカーに多く見られるように、顧客の売買を誘うことを目的としたストーリーばかり語っていてはいけない。
(ダモダラン教授は、そもそもの話として「AI企業」などと一括りにせず、アーキテクチャ、ソフト、データ、製品/サービスのどの分野なのかを明確に区別すべきとも書いている。)
聞き手はそうしたバイアスを十分に理解した上で、大きく割り引いて話を聞くべきだ。

ダモダラン教授のブログのテーマは、AI関連銘柄、NVIDIA株、そしてDeepSeekショックだ。
教授は、AI関連として最初に持てはやされた分野として、計算能力の高いコンピュータとチップ、電力、クラウドビジネスを挙げる。
中でも注目されたのが、言うまでもなく、高性能チップ・メーカーであるNVIDIAだった。
ダモダラン教授は以前からNVIDIA株の評価を続け(実際に売買もし)、同市場株価の織り込む未来の数字が実現不可能であろうことを伝えてきた。
DeepSeekショックはそうした意見を証明する1つの事象だろう。

ダモダラン教授はDeepSeekショックを振り返り、仮に今後DeepSeekがAI市場のレースから脱落しても、一度壊れたAIナラティブは戻らないと書いている。

DeepSeekによる短期・長期の打撃は、AIアーキテクチャ構築での主たるプレーヤーである企業に及ぶ。
NVIDIA(とそのチップ事業)に加え、AIデータセンターに投じられる数百億ドルからの恩恵を受けるエネルギー・ガス企業もだ。
・・・企業がAIの必要性を吟味するにつれ、AIへの出費への意思は鈍化していくだろう。

このため、多くの企業は大急ぎでAI事業に飛び込んだMetaやMicrosoftではなく、慎重な参入を選んだAppleのやり方をまねるだろう。

ダモダラン教授は、こうしたAIナラティブの変化を指摘しつつも、プラス面にも目を向ける。
安価なAIへの道が見えたのはユーザーにとってメリットである他、NVIDIA等のハイエンドAI企業についても

「そのAI製品/サービスがハイグレード、つまり不確実性に直面した人間の判断まで模倣しようとするなら、DeepSeek参入の効果は最小限、おそらくゼロだろう。」

と悲観しすぎないよう示唆している。
ただし、この言葉は裏返しに、ハイエンドAIがAI市場の中でボリュームゾーンではないことを示しているのかもしれない。
こうした考えは、ダモダラン教授が抱き続けるAIの最終製品/サービスへの懐疑的見方からもうかがえる。

「過去2年、大きな対価を払いたいようなAIは1つも見つからなかった。・・・
多くの場合で、DeepSeekは私の長年のAI製品/サービスへの懐疑心を裏付けてくれた。
消費者であれ企業であれ、AI製品/サービスは『人生を変える』といったものでなく『これかわいい』とか『すてき』といった領域にとどまっている。」

ダモダラン教授と言えば(価値評価もそうだが)何と言っても毒舌だ。
ここで、教授が「テクノロジーの巨人やビジネスの先駆者」について吐いた毒舌を紹介しよう。

「彼らは賢い人たちだが、私は2つの理由で用心している。
1つ目は・・・彼らのほとんどには盲点がある。
おそらく、似た考え方の人たちで集まっているからだろう。
2つ目は・・・私は年を食っていて、以前の革命的変化の際にもこうした伝道師の勧誘を聴いたことがあるためだ。」

ダモダラン教授は「革命的変化」の例を3つ挙げている:

  • 1980年のPC: たいへんな仕事がなくなると言われたが、財務アナリストは巨大なスプレッドシートによって魂を抜かれている。
  • 1990年のインタネット: 人間の知を高めると言われたが、人間の論理的思考を弱め、誤情報をもたらした。
  • 今世紀のソーシャルメディア: 人とのつながりによって幸福をもたらすと言われたが、以前より孤立と不幸が増えた。

(次ページ: アスワス・ダモダラン教授によるNVIDIA株の評価)


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