政治

ふるさと納税:もういい加減にしませんか
2018年11月23日

読売新聞が、東京都内のふるさと納税の実態についての記事を載せていた。
そこには大きな失望とともに希望の光とも言うべき事実が紹介されている。


東京都の地方自治体はふるさと納税の被害者と言える。
他地方に比べれば自然体で比較的多くの税収が得られるはずなのに、域内の納税者のふるさと納税のために税収が減ってしまうのだ。
ところが、その都内にも加害者側に立ってしまった自治体がある。

都内のある町ではふるさと納税の寄付額5,000円に対して町設民営温泉の招待券5枚(1枚780円相当)を返礼していた。
返礼品を納税額の3割以下とするよう求めていた総務省からおしかりをうけた。
町はなぜこんなルール違反を起こしたのか。
町側にも言い分はある。
町は当該招待券を第3セクターから無償で提供を受けていたのだ。
町はコスト・ベースで「3割」を判定したのである。

もっとも、総務省が言う通り、こうした理屈には無理がある。
経済システムには長い目で見ればフリー・ランチはないと考えるべきだ。
この無償提供は、その時点ではタダであるかもしれないが、どこか潜在的コストが発生していると考えるべきなのだ。
ふるさと納税自体が自治体への寄付だから、そこにまた寄付が発生するならこれは二重の寄付ということになる。

第3セクターとは半官半民の組織。
今回の企業では町のほか地元企業、金融機関、各種組合・協会などが株主となっている。
招待券の無償提供は観光の振興を通して本当にこの企業の利益にネットで貢献しているだろうか。
もしも貢献しているなら問題は何もない。
しかし、ネットでコスト要因になりうるなら問題なしとはいえない。
私たちは大昔から第3セクターに潜むさまざまな問題点を見せつけられてきた。
ある時は税金の無駄遣い、ある時は民間からのたかりといった具合だ。

この企業は招待券の無償提供をどう会計処理していたのだろう。
寄付金だろうか、それとも何も仕分けしないのだろうか。
寄付ならば限度額まで損金算入ができ、その分法人税の負担が小さくなる。
売上を計上しないだけならば、招待した分の限界コストが節税効果になる。
こうしたスキームは地方税の移転だけでなく(程度は小さいながらも)国税を地方税に移転する効果さえあることになる。
(この問題は、この企業が町に対してコスト・ベースで招待券を販売していれば起こらない。)

もっとも、都内の多く自治体は被害者の側だ。
記事ではそうした自治体の窮状も伝えている。

「立川市は、ふるさと納税制度による税収減に苦しんでいる。
・・・
8億円以上の税収減に直面する中野区は、「流出分」を少しでも取り戻そうと・・・」

やられたらやり返すしかない理不尽な現実が現れている。
やられたらやり返すしかないのは自治体の側ばかりでない。
納税者の側にも存在する。
返礼品が高価なふるさと納税を多くすればするほど得になる構図が存在する。
その返礼品にかかわるコストはネットで税収を減らし、その負担は回りまわって広く納税者に転嫁される。
政府が定めた制度によって国民の間に《やらなきゃ損》の状態が維持され、かつ税収が減っている。

しかし、やられてもやり返せない人もいる。
ふるさと納税の限度額は所得が増えるにしたがい大きくなる。
高所得者は高額の返礼品を得る機会が与えられ、限度額がほとんどない貧乏人は単に潜在的増税に脅かされることになる。
この制度は逆進性さえ備えているのだ。

これほどまでに問題の多い制度がなぜか継続している。
これまで総務省が打った主な是正策と言えば、返礼品の額に節度を持たせるよう指導することぐらいだ。
なぜか。
おそらく、知恵を絞っても、この制度を改良する手段がないのだろう。
いや、そんなことはない。
同日の読売新聞の記事では、前橋市のケースとして希望を抱かせる話が載っている。

市は20日の市議会総務常任委員会で、4~9月の寄付総額が約2368万円と、前年同期から75%減少したと報告。
高額の寄付に対する返礼品でタブレット端末やギター、商品券などを扱っていたが、昨年6月末でこれらの取り扱いをやめた影響とみられる。
寄付件数は732件と、減少率は9%にとどまった。

つまり、高額寄付に対する返礼品をやめたら寄付金額が大きく減ってしまったという話だ。
一方、件数はたいして減らなかった。

現実を見る限り、もはやふるさと納税の社会的意義は見いだしがたい。
しかし、もしもその意義が《ゆかりのある自治体に寄付の形で貢献する機会を与える》ということであるならば、返礼品など要らない。
返礼品なくして寄付がなくなるのであれば、それまで存在した寄付とはどのような意義・趣旨でなされていたのであろうか。
そこには卑しい本音しか見いだせない。

前橋市では4-9月に732件もの寄付があった。
これこそが尊い志に基づいて行われた寄付であり、政府や社会が尊ぶべきものだろう。
金額こそ減ったとは言え、そういう寄付がまだ多くなされていることは大きな希望の光だ。

ふるさと納税は廃止した方がいい。
どうしても存続したいのであれば、返礼品の価値を政府が厳しく評価し、寄付金額からその評価額を差し引くようにすべきだ。
それでふるさと納税が減るならば、それこそ卑しい行いを排除したと喜ぶべきなのだ。


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